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サイレントエモーショナルサマー
第17章 ricordo
映画館を出てから遅めの昼食にとランチプレートが評判の店に入った。少し時間がずれているとはいえ、土曜の昼時で店内は混み合っており、暑さからか外のテラス席しか空いていなかった。暑さは気になるもののテラス席以外は禁煙らしいので、喫煙者である私たちからしてみれば好都合だ。

「あれ、藤じゃねえか」
「え、どこ?」

ふと浩志が声をあげた。ランチプレートを食べ終えて、コーヒーと共に食後の一服を愉しんでいる時だ。浩志の目線を追うと、通りの向こうに見慣れた長身がある。少し伸びたこげ茶色の髪。白い肌。紺色っぽいTシャツを着ているが、ボトムスはよく見えない。同年代らしき男性と一緒に歩いているようだ。

「ほんとだ。藤くんって友達居たんだね」
「…お前、自分と一緒にすんなよ。あいつはまあ社交的だし、交友関係広そうだろ」

今のような関係になっていなければ特に疑問に思うことはなかった。よもや、藤くんの週末は私とセックス三昧だの、週の大半を私と過ごしているだのとぺろっと言ってしまう訳にはいくまい。

私には趣味がない。否、強いて言うなら読書、ぶっちゃけて言うならセックスである。でもって、友人だと公言できるのはチカと浩志だけだ。プライベートにおいては先の予定を立てるということが非常に苦手である為に、約束と言うものは殆どしない。だから平日の業務後や土曜は一番最初に声をかけてくれた人と過ごすようにしている。

「どうせ私は友達居ませんよ」

ふん、と鼻を鳴らしながら藤くんの隣を歩く人物の顔に目を瞠った。私が気付いたすぐ後には角を曲がっていってしまったけれど、あれは間違いなく過去に関係を持ったことのある人間だ。名前はなんといったか。確か比較的長く関係を継続していた筈だが思い出すことが出来ない。

「おい、どうした」
「あ、えーっと…なんだろ…」

あはは、と乾いた声をあげ、コーヒーのカップへ手を伸ばした。藤くんはあの彼に私のことを聞いたから知っていたのだろうか。あの彼とセックスをしていたのは何時までだっただろうか。隼人と出会うより前だったような気がする。いつだ。思い出せ。まず、名前だ。それから、
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