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サイレントエモーショナルサマー
第17章 ricordo
「中原さんと3人で飲んだ日、中原さんに煽られて内心かっとなってたんですよ。なのに俺のこと煽ったくせにお前なんか相手にされてねーよぐらいの勢いであの人先帰っちゃうし。だったらもう正攻法辞めてやるよって頭に来てたら志保さん戻ってきて俺の脚触ったでしょ。据え膳食わない訳にいかないでしょ、しかも女神からの据え膳ですよ」
「あのさ、さっきから気になってたんだけど、その…私、いつから藤くんの女神なのかな?」
「……そこはちょっともう少し気持ちの整理がついたら話します」
「今の話より言いづらいことなの?」
「俺としては相当ショッキングな記憶が絡むんで。出来ればもう少し待っていただけると嬉しいです」
「…ん、わかった。待つよ」
「ありがとうございます。で、あの日タクシーの中でこの人きっと俺のこと甘く見てんだろうなって思ったらS心が刺激されまして…ま、結果、現在に至ってますね」

これが、愛情か。私がよく分からなくなってしまった感情なのか。誰かに振り向いて欲しいと努力したことなどない私には到底真似出来そうにない。

藤くんは私が彼を救ったという時のことはまだ話したくないらしいが、そのことを全く覚えていない自分が情けなくて、恥ずかしくて、悲しかった。

彼をこうも縛り付けているのに、私には彼の感情がしっかりとは理解できていなかったのだ。

「この性欲の強い俺が、あなたと再会してから一年、あなただけを思って過ごしてきたんですよ。俺はあなたが好きです。志保さんしかいりません。だから、あなたの心を俺にください」
「藤くん…、」
「今すぐじゃなくていいです。順番は逆になったけど…いつか、俺はあなたの心も貰いますから」

顔が見たい。腕の中でもがいて、立ち上がって振り返る。どんな顔をしているだろうと思ったけれど、見下ろした先、藤くんの顔はとても、優しく、ぼんやりと覚えている父親の表情がだぶって見えた。

「…私、よくわからないんだ…好きとか、付き合うとか…いつか終わるものなのにって、思うの」

藤くんの頬へ手を伸ばす。しっとりと柔らかい肌。健康的に白く、美しい。
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