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サイレントエモーショナルサマー
第17章 ricordo
「私は藤くんにそんな風に思って貰えるような女じゃないよ。どうでもいい男とセックスばかりして、趣味もないし、それにあなたの悪友とだって寝てた女だよ」
「どうでもいいなら、いいです。今、志保さんにとって俺はどうでもいい相手ですか」
「藤くんは違う。恋とかそういうの自信ないけど、藤くんは特別だよ」
「それならとりあえず、いいです。特別セックスが気持ち良いとかでいいです。だから、俺から離れないで」

お願いします、と腕を引かれる。そのまま彼の胸に倒れ込んで、いつものお日様の匂いを感じた。

「…今度、私の話もするよ」
「セックスの話はソフトにしてくださいね。特に恭平とあれこれしてた話とかは聞きたくないです。今度あいつに会ったらぶん殴りそう」
「…そうします。でも、今日はもうちょっと抱き締めてて欲しい、かな」
「抱き締めるだけでいいんですか?」
「キスも、」
「それから?」
「嘘でしょ、もう装填されてんの?」
「寝ましたし、飯も食いましたし。俺、獣なんで」
「………あ!そうだ!ケーキ!ケーキ、食べよ」

藤くんの手が胸に伸びてきたのを察知して逃げる。よたよたと冷蔵庫に向かってケーキの箱を取り出しから彼の隣に戻った。

「チーズケーキにしたの。藤くん食べられる?」
「チーズケーキ、ですか」
「えっ、まさか苦手?ごめんね、好みわかんなくて自分が好きなの買ってきちゃった」
「なんだ、思い出してくれたと思ったのに」
「…はい?」
「チーズケーキはね、俺と志保さんの思い出のケーキなんですよ。あ、ベイクドだ、嬉しいです」
「その話はまだひみつ?」
「まだ、秘密です」

人はこうやって、語り合って、距離を詰めていくのだ。浩志は意識せずとも出来たのに、藤くんとは端からそうする気などなかった。彼の家に通って、セックスをして、多分昨日彼が恭平くんと歩いている姿を見なければこんな風に語ることもなかっただろう。
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