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サイレントエモーショナルサマー
第17章 ricordo
恐らく、彼は私が嘘をつけないことを覚えている。いつだか、私を嘘つきにする人は大嫌いだと言ったことを忘れていないのだろう。

「……未知数」
「ふうん。ゼロ、ではないってことですね」
「…その顔!そのにやにや笑いずるい!」
「なにがですか、」
「なんかおかしいもん、最近私、藤くんに手玉に取られてる」
「今頃気づいたんですか?遅いですよ」
「なんだと!」
「もっと、転がってください。もっと、ぶつかってきてくれていいんですよ。俺はもっと志保さんのことが知りたい」

ちゅうっと首筋に吸い付かれてはもう抵抗する気などどこかへ行ってしまった。Tシャツを捲り上げる手は優しいのに、情熱的で、もっと触れて欲しいと思ってしまう。

「…今日も帰らせたくないです」

だから、耳元で喋るのは辞めてくれ。それをされると下腹部がきゅんきゅんと煩くなる。身を捩って逃げようとする私の頬に触れて、目を合わさせる。ああ、綺麗。もっと、ずっと、見つめていたい。

「ね、藤くん、甘えていい?」
「それは、どういう、」
「ちょっと、夏はあまり家に居たくないといいますか、上手く眠れなくて…だから、」
「志保さんを帰らせなくていいってことですか?俺の家から会社行って、俺の家に帰ってきてくれるってこと?」
「いや、それは流石に迷惑でしょ?だから、今日だけでいいから、今日も藤くんと一緒に寝たい」
「今日だけじゃなくていいですよ。ずっと、そうしてください。あ、もう先に結婚します?」
「うん、落ち着こう。はい、起き上がって。ちょっと話をしましょう。こら、触らない」

藤くんの恋慕も愛情もとりあえずは理解したが、結婚となると恥ずかしながら私は問題山積みの女である。まだ自分が彼に対して抱く感情に自信がない上、下半身はゆるゆるだし、掃除洗濯は出来ても絶望的に料理が出来ない。最大の問題は自分は子供を望めない身体である可能性が高いということだ。
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