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サイレントエモーショナルサマー
第18章 ferita
◇◆
「……晶って本当に嫌なタイミングで現れてくれるよね」
「お前は本当に俺を興奮させるのが上手いな。いい顔してる」
褒めているのか、貶しているのか。はん、と息を吐くと晶はにやりと笑う。
定時を過ぎて部長に連行されていく憐れな人たちを見送り、会社を出た私を待っていたのは、今日は仕事で遅くなるから泊めてあげられない、ごめん、というチカからの返信と、にやにや笑いを湛えた過去の亡霊であった。随分と軽装で鞄すら持っていない。
「ちょっと付き合えよ」
「お断りします」
「今日はヤらねえよ。飲み、付き合え」
「…?え、なんかあった?去勢したの?」
「お前がヤりてえならホテル連れ込むぞ」
「いえ、結構です」
藤くんはどうぞ好きにしてください、と言ったが晶とのセックスは避けられるなら避けたい。藤くんにすら許していないことを強行されたくはない。
まぁ、酒を飲むくらいなら良いか、とか安易なことを考えて了承した自分を呪う結果になるとは露知らず、私は晶に連れられ20分ほど移動し居酒屋の個室へと押し込まれた。
― くっそ、こいつなに考えてんだよ
悪い、待たせたな、と言いながら個室に入っていった晶に続き戸口に立つなり、私は言葉を失った。ビールを飲みながら煙草を吸って、私たちを待っていたのは私が未熟であるが故に傷つけてしまった人だった。
「…………」
「…………お久しぶりです」
立ち去りたい。偶然知り合ったという言葉では飲みに行く程の間柄になっているとまでは想像できなかった。あー、だの、えー、だの言って逃走を図ろうとすると晶は逃げるなとばかりに早く座れと言う。
4名用の個室。掘りごたつの上座には晶が腰を下ろし、その向かいにはまともに顔を見ることも出来ない人が座っている。どちらの隣に座れと言うのだ。こんなことになるなら地獄の部長会の方がマシだった。
「志保、座れよ」
「あ、なんだったら僕が晶さんの隣行きますよ」
「え、あ、えーっと、いえ、大丈夫です」
俯きながら渋々晶の隣に座った。いっそさっさと酔っぱらって正気を失くしたい。いや、でもそんなことをすれば晶にホテルに連れ込まれるかもしれない。どうする、自分。