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サイレントエモーショナルサマー
第18章 ferita
「直希、なんか料理頼んだか」
「枝豆とか軽いのいくつか」

直希?直希だと?私だって一度もそんな呼び方しなかったのに。なんだ、このふたり。知り合いどころか私が思っているより親しいのか。

「志保、お前なに飲む」
「ウーロン茶」
「……すいませーん、生ふた、いや、みっつで」
「都筑さん、少し痩せましたね。お元気ですか」
「はい、おかげさまで…」

都筑さん、か。数年ぶりの低い声が胸に突き刺さる。晶がなにを思って引き合わせたのか分からない、今、晶の前に居る人は私が最初に入社した会社で出会った人だ。三井直希。東北の生まれでちょっとなまったイントネーションが可愛くて、くしゃりと笑う優しい人だった。

晶と離れてから一度だけ、付き合った、と言える人。もがいてもがいて、私は結果的にこの人を酷く傷つけた。

「おい、お前大人しいな。この間はぎゃあぎゃあ生意気なこと言ってただろ」

頼むから黙ってくれ。やけくそになって運ばれてきた生ビールをぐいと呷りながら晶を睨む。余計なことは言わないぞ、と押し黙ってビールと共にやってきたきゅうりの漬物に箸を伸ばす。

冷や汗だらだらで早く帰りたい私に反して、三井さんには特に驚いたりとか嫌そうだったりとかという様子は見られない。失望されているだろうと思っていたが、今、彼はなにを考えているのだろう。

「あの、すみません、僕が晶さんに頼んだんです。晶さんが都筑さんとお知り合いで最近会ったって言うんで、その、もう一度話したくて」

会ったどころか脅迫してホテルに連れ込んだくせに!しかもこいつはあなたの名前を使って私を脅迫したぞ!素知らぬ顔で煙草に火を点ける横顔をきつく睨むが、晶は顎で灰皿を寄越せと指図するだけで何も言わない。

「元気かなって、ずっと思ってました」

私は身を案じて貰えるような人間ではない。彼を裏切って、彼を傷つけた。

「お前さ、うんとかすんとか言えよ」
「…うるさいな」
「お、喋った。おい、直希、こいつ煽ると喋るぞ」
「……ほんと、むかつく」
「まあまあ、晶さん。色々思うとこあると思いますけど楽しく飲みましょうよ」

ゆらゆらと煙を吐き出しながら目を細めて微笑む。なにも、変わっていない。ああ、この人ならもしかして、と思った時と同じ顔だ。それを見るとほっと肩の力が抜ける。
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