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サイレントエモーショナルサマー
第18章 ferita
晶が居なくなった後、私は所謂男性恐怖症のような状態だった。大学を卒業するまでの間に何度か告白をされたこともあったが、この人もセックスをして去っていくのか、と恐くなり男性からはとにかく逃げ続けた。だが、まだいつかもう一度恋をして、誰かと寄り添ってという感情は失くしていなかった。だから三井さんとなら、と淡い感情を抱いた。
「直希と志保、同じ会社だったんだろ」
「そうですね。僕が1期上で……懐かしいですね」
「お前なんで辞めたんだよ。大企業だろ、もったいねえ」
「……あんたにだけはとやかく言われたくないね」
死にもの狂いで内定を獲得した大手企業に入社してからの生活は目まぐるしかった。とにかく給料が良いこと、年間休日が多いことなどの条件で選んで奇跡的に入社までこぎつけた会社で業界にも業務内容にも憧れだとか意欲だとかというものを持っていなかった私にとって日々のモチベーションを保つことは困難を極めた。
罵詈雑言飛び交う研修も、女性社員同士の陰湿な潰し合いも、お茶くみだのという古い慣習も、なにもかも全てが馬鹿らしく、何故、この会社にしがみつかねばならないのか、と疑問を抱えながらの毎日だった。
他人からの評価などどうでもいい私にとって社内での安息の場所は喫煙所だけだった。人の言葉に疲れれば逃げ込んで、煙草を吸って、ほっと息を吐く。深呼吸によく似ていた。三井さんは最初は、よく喫煙所で見かけるな、程度の人だった。
「俺の所為だって言いてえのかよ」
「そうは言ってない。ただ、私はやりたいことがあってあの会社選んだわけじゃなかったから頑張る理由が見つからなかったってだけ」
「でも、当時都筑さんのことみんな褒めてましたよ。一言えば十わかるのはあの子だけだって、あと、誰にでも優しいって。辞めた後も勿体ないって暫く噂になりましたし」
「……はは、お世辞でも嬉しいです」
あの頃は心のどこかでもしかしたら晶が戻ってくるかもしれないと思いながら、あの古いアパートを守っていくことに対して疑問を覚え始めていた。
頑張って、なにになるのだろう。どうしてこんなに精神的に擦り切れていかなければならないのだろう。明日なんて来なければいいのに。そんなことばかりを考える日々の中、三井さんとは喫煙所で会えば挨拶を交わし、社内ですれ違えば言葉を交わし、と少しずつ距離が詰まっていった。
「直希と志保、同じ会社だったんだろ」
「そうですね。僕が1期上で……懐かしいですね」
「お前なんで辞めたんだよ。大企業だろ、もったいねえ」
「……あんたにだけはとやかく言われたくないね」
死にもの狂いで内定を獲得した大手企業に入社してからの生活は目まぐるしかった。とにかく給料が良いこと、年間休日が多いことなどの条件で選んで奇跡的に入社までこぎつけた会社で業界にも業務内容にも憧れだとか意欲だとかというものを持っていなかった私にとって日々のモチベーションを保つことは困難を極めた。
罵詈雑言飛び交う研修も、女性社員同士の陰湿な潰し合いも、お茶くみだのという古い慣習も、なにもかも全てが馬鹿らしく、何故、この会社にしがみつかねばならないのか、と疑問を抱えながらの毎日だった。
他人からの評価などどうでもいい私にとって社内での安息の場所は喫煙所だけだった。人の言葉に疲れれば逃げ込んで、煙草を吸って、ほっと息を吐く。深呼吸によく似ていた。三井さんは最初は、よく喫煙所で見かけるな、程度の人だった。
「俺の所為だって言いてえのかよ」
「そうは言ってない。ただ、私はやりたいことがあってあの会社選んだわけじゃなかったから頑張る理由が見つからなかったってだけ」
「でも、当時都筑さんのことみんな褒めてましたよ。一言えば十わかるのはあの子だけだって、あと、誰にでも優しいって。辞めた後も勿体ないって暫く噂になりましたし」
「……はは、お世辞でも嬉しいです」
あの頃は心のどこかでもしかしたら晶が戻ってくるかもしれないと思いながら、あの古いアパートを守っていくことに対して疑問を覚え始めていた。
頑張って、なにになるのだろう。どうしてこんなに精神的に擦り切れていかなければならないのだろう。明日なんて来なければいいのに。そんなことばかりを考える日々の中、三井さんとは喫煙所で会えば挨拶を交わし、社内ですれ違えば言葉を交わし、と少しずつ距離が詰まっていった。