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サイレントエモーショナルサマー
第18章 ferita
その一方で、私はとある男性社員から熱烈なアプローチを受けていた。何度断っても、やれどこそこにランチに行こうだの、やれ夜景の見えるレストランは好きか、だのと日々の業務で衰弱していく私が見えていないのかと叫びだしたくなるほどの猛アタックだった。ホテルのバーで飲もう、と誘われた日にはなにかがぴしりと凍りつくのを感じた。

気付けば、私は喫煙所で三井さんに会うとその男性社員の愚痴を吐くようになっていた、下心隠せよ、とか、ケツ触るんじゃねーよ、とかそれはもう今以上に口汚い愚痴であった。私の安息の場所は三井さんの存在によって更に落ち着くことの出来る場所になっていったのだ。

「……あの頃は三井さんに凄く助けられました、でも、なんていうか、」
「いいんですよ。僕も、未熟だったんです」

三井さんはとにかく優しい人だった。気持ち悪い、と眉を顰める私に缶コーヒーを買ってくれて、私の気が済むまで愚痴を聞いてくれた。

― 僕、都筑さんのこといいなと思ってます。迷惑でなければ僕と付き合ってくれませんか

入社後半年くらい経って、三井さんは言った。それを聞いた時、私は心底驚いた。彼の前での私は外聞など厭わず口汚い愚痴を吐き、文句ばかり言っている小娘だったのだ。そんな私のどこをいいと思ったのか、と疑問に思うと同時に、この人にならさらけ出していくことが出来るのかもしれない、と感じた。

「……都筑さんて、不思議な子だったんですよね。他人なんか興味ないみたいな顔してるのに、誰にでも優しいし、そうかと思えばぶちってなると結構過激で」
「俺もびびったわ。こいついつの間にかすげー口聞くようになってんの。昔は泣いてばっかだったのに。なあ、志保」
「…あのさ、ほんと黙ってくれないかな」

晶と暮らしていた頃の私は今となっては信じられないくらいに大人しい子だったと思う。とにかく晶に嫌われたくなくて口答えなるものは殆どしたことがなかった。彼が出ていった後、その反動で思考は澱み、いつしか口が悪くなっていた。

晶はなにを考えているのだろう。三井さんにはどこまで私のことを喋っているのだろう。とりあえず余計なことは言わせたくないので機嫌が良くなる魔法のアイテム卵焼きを二皿注文する。ついでにおかわりのビールを3つ頼んだ。
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