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サイレントエモーショナルサマー
第3章 檻のなかの土曜日
まあ、良い。やってしまったことはもう覆らない。藤くんの気配がないのがチャンスだ。今の内に家に逃げ帰ることにしよう。
次に会社で顔をあわせたって、こういう女なの幻滅したでしょう、と冷たくあしらおう。そもそもそれが目的だったのだ。
ふんと鼻を鳴らし全裸のまま恥じらいなく衣服を探すが見つからない。確かシャワーを浴びた時に浴室の前に置いてあった籠に畳んで入れて置いた筈なのに。その籠すらもない。
廊下の洗濯機の中を覗いてみても綺麗にからっぽ。ベッドへと戻っても枕元には彼の物であろうTシャツが畳んでおいてあるだけだ。
玄関に放り出してあった私の鞄はソファーに移動しているのにどれだけ探しても服だけが見つからない。
「なんでよ…」
藤くんが戻ってきてしまう。どうしよう。彼の服を勝手に拝借して消えるべきか。ダメ元でもう一度洗濯機を覗き込むとその行為を嘲るようにがちゃりと玄関の鍵の開く音がする。
「ひっ…!」
「全裸で出迎えって…まだ足りないんですか?」
「ちがっ…えっと、これは…」
「服、俺のTシャツ出しといたんですけど」
「いや、うん?私の服は?」
「いやいや、志保さんの服置いてったら俺が居ない隙に逃げるつもりでしたよね」
ほう。ということは君はその黒い紙袋に私の服をいれた上でコンビニに出かけていたということか。藤くんの両手の荷物で現状を察し、彼を睨む。