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サイレントエモーショナルサマー
第18章 ferita
通りに消えていく後姿を見ながら、あいつは多分また私の前に現れるだろうな、と思った。確かに私にも落ち度はあった。泣いて悲劇のヒロインを気取った自分に酔っていた。だが、晶が強姦まがいの行為に興奮するくそ野郎だという事実に変わりはない。

奴は恐らく男の友情がうんたらと気分よく格好よく去っていったつもりだろうが、どうせまた嫌なタイミングで現れて一発ヤらせろと言ってくるに違いない。良い奴になどしてやるものか。私はもう彼を恨むつもりはないが、晶が情に篤いただの良い人になるのは納得できない。

「あれ?晶さんは?」
「あー、えっと、帰りました」
「え。あの人自由だな…ま、なんていうかそこが楽で、結構正反対なんで晶さんと釣り行ったり、飲み行ったりって面白いんですよね」
「そ、そうなんですか」

個室に戻ったはいいものの、実に気まずい。

あの頃、目まぐるしい毎日に疲れ果て、会社に執着のなかった私は結局一年で退職した。その後、三井さんとのお付き合いは数か月続いたが、最終的に彼は私に初めて涙を見せ、関係が終わった。4年程前の話だ。

「……本当に元気そうでほっとしました。最後に会った時僕は都筑さんを追い詰めてたから」
「いえ…追い詰められたなんて思ってません。私は結局三井さんに助けてもらうばっかりで、あなたになにも出来なかった」
「……僕が、もう少し待てればまた違ったのかって今でも思います。僕は何年経っても最後に会った日の都筑さんの顔が忘れられません」

言いながら三井さんはもう温くなっているであろうビールを飲んだ。彼の言葉を受け止めつつも、私は彼と最後に会った日、自分がどんな顔をしていたのかなんて思い出すことが出来なかった。ただ、三井さんが初めて涙を流す姿を見て、ああ、私はこの人を傷つけたのか、と思ったのだ。

私としては徐々に三井さんは特別な存在だと思うようになっていた。でも、好きだとか、愛してるだとかとそう言った言葉を彼に伝えることはなかった。三井さんは分かってくれているだろうと思っていたのだ。
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