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サイレントエモーショナルサマー
第19章 Renatus

数分経って藤くんがフロアに姿を見せた。彼も見事に地獄を見ましたという顔をしている。おはようございます、と明るい筈の声もなんだか濁って聞こえる。

席を立って歩み寄ると彼は顔を輝かせて腕を広げた。こんなところで抱き締めてはやらんぞ、とその腕を下ろさせ、浩志に渡したのと同じドリンク剤を藤くんの手に握らせる。

「ありがとうございます。でも、俺、これより志保さんのキスがいいです」
「飲まないなら鼻から流し込むよ」
「いやまじで…ツンデレな志保さんが好きですけど今日はデレしか欲しくないです」

口ぶりから察するに浩志よりは余力がありそうだ。流石に誰が見ているか分からないこのフロア内でキスをする訳にもいかないので、ぽんぽんと背中を擦るととりあえずは満足したらしい。

始業ギリギリになって駆け込んできた部長は屍も同然の4名の犠牲者たちの姿が更に憐れに思える程今日も元気なゴリラだった。部長の分もドリンク剤を購入しておいたが渡す必要はなさそうなので自分で飲んだ。
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