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サイレントエモーショナルサマー
第19章 Renatus

◇◆

いつものノックの音も心なしか鈍っていた。じりじりと開いたドアからゾンビのように現れた藤くんは酒が抜けきっていないのかよろよろと私の隣に立つと抱き着くのではなく寄りかかろうとして来る。

「ちょ、藤くん…体格差考えて…た、倒れる…」
「俺ね、昨日志保さんがベッドに居る妄想しながら帰ったんですよ…でも、志保さん居ないじゃないですか…もうね、地獄から地獄って感じです…」
「……私も昨日はある意味地獄を見たよ」

私の体勢が崩れそうになると手を引いて腕の中に閉じ込める。ちゅ、ちゅ、と額や首筋にキスをして髪の中に鼻先を埋めた藤くんは子犬のようにすんすんと鼻を鳴らす。

「昨日、家帰ったんですか?」
「なんで分かったの?」
「志保さんのシャンプーの匂いがします。ちゃんと眠れました?」
「……鼻利くね。泥酔して帰ったからいつの間にかソファーで寝てた」

そんなに香りの強いシャンプーだったかな、と思いながら倉庫内での作業を進める。今日の藤くんは私の髪の匂いを嗅ぐのが楽しいようで飽きもせず、すんすんしている。

「志保さんって二日酔いしないタイプですか?」
「んー、赤ワインと焼酎は結構残るんだけど他は平気かな…ちょっと頭痛い気もしなくはない」
「聞いてくださいよ、俺昨日ビール散々飲まされたあと日本酒五合いきましたよ…もう当分酒飲みたくないです。流石に昨日は志保さんがベッドで寝てても勃たなかったかもしれないです」
「……今週の金曜暑気払いだよ。藤くん二年目だし絶対飲まされるよ」

私がそう言うと、それは嫌だとばかりに藤くんがぶるりと震えた。おお、酒に怯えている。こういう藤くんは初めて見るので中々面白い。
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