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サイレントエモーショナルサマー
第19章 Renatus
「志保さん、今晩デレになって俺を癒してくれません?」
「定時で上がれたらね」

つれないことを言いつつも抱き締めてくる手に脇腹を擽られればぞくぞくしてしまう訳である。顔を向けて、キスをしてにこりと微笑む。ずるいなぁ、その顔と思うと同時にほっとしたりする。

どうやったら自分の気持ちに自信が持てるのだろう。藤くんが傍に居たり、藤くんの家に行くと気持ちがほっとして落ち着くことは事実であるし、ふとした表情を見た時に湧き上がるあの名のなかった熱が愛おしさであると言えば、そうだろうとぼんやり思う。

だが、好きだとか、愛しているとかを伝えられるのかというと、やはり、まだそこには到達していないような気がする。

うーん、と唸り声をあげる私に不思議そうな顔になった藤くんはやわやわと私の髪に触れて顔を覗き込んでくる。

「どうしました?」
「……なんか難しいなと思って」
「え、今日そんな仕事忙しいんですか?俺、なんか手伝いましょうか」
「ううん。仕事じゃないよ」

藤くんが真っ直ぐ言葉をぶつけてくれたことは嬉しかった。でも、藤くんを見ても今の私が思うのはキスしたい、と、セックスしたい、なのだ。非常に申し訳ないが、好き好き!大好き!までは行っていない。

いや、でも、普通は好きな人だからセックスしたりキスしたりする訳か。うーん、分からない。

「あのさ、やっぱり数日藤くんのおうちに泊まってもいいかな」

一先ず、ごちゃごちゃ考えるのは辞めてもっと藤くんのことを見てみたかった。彼の家に行けば結局セックスをするだけになるのだろうが、何日も泊まるともなればまた違った一面が見えるのかもしれない。

「俺、まだ酒残ってるんですかね…今、幻聴が…」
「…今日、狩りに出るわ」
「冗談、冗談です。もう何泊でも喜んで」
「じゃあ、仕事早く片付けたいので藤くんもお仕事に戻ってください」
「了解しました。チャージ完了したんで馬車馬のように働いてきます」

すっかり元気を取り戻したゾンビはちょっと酒臭いキスをしてから倉庫に入ってきた時とは180度違う足取りで出ていった。
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