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サイレントエモーショナルサマー
第3章 檻のなかの土曜日

別に私は変態じゃない。ただ、セックスが好きなだけだ。藤くんが言うほど誰彼構わずヤってる訳でもない。確かに相手は『好きな人』ではないが、私だって多少なりとも相手は選んでいる。

ち、とこれ見よがしに舌を打ってボクサーに足を通す。その様をみて満足そうに笑った藤くんにあっかんべをして散々泣かされたベッドの上に倒れ込んだ。

「普通、この状況で迷わずベッド行きます?やっぱりまだ足りないんですか」
「もうなんとでもどーぞ」
「うわ、開き直った」
「開き直るよ。もういいもん。幻滅したでしょ?藤くんが毎日毎日飽きもせず好き好き言ってた女はセックス大好きなくそ女だよ」
「志保さんは淫乱で変態ですけどくそ女なんかじゃありません」

はい、こっち、とコーヒーを淹れてくれた藤くんに促されソファーへと腰を下ろす。ぴったりとくっついて座って見上げた横顔には少しだけ無邪気さが戻ってきていた。

そっとマグカップに口をつけて、コーヒーを一口。ソファーの前のローテーブルにカップを戻すと藤くんの腕が腰へと回ってくる。抱き寄せられて頭部を彼の胸へと預ける。

「……藤くんさ、私のこと知ってたんだね」

彼は私を抱きながら自分は私とは違うと言った。自分は好きな人しか抱かないけれど、お前は好きでもない相手と寝ているのだろう、と。

あの言葉だけでは彼がどこまでを知っているのかは分からない。目を伏せると腰に回った藤くんの腕に力が入ったのが分かった。

「知ってたから好きだって言ってたの?そう言ってればヤれると思ってた?」
「……志保さんは淫乱で変態の上にバカですね」
「な…!」
「あのね、志保さんの想像通り俺、結構モテるんですよ。セックスしたいだけなら1年も好きだって言い続けてんのに振り向かない人なんて選びません」

ご尤も!
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