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サイレントエモーショナルサマー
第3章 檻のなかの土曜日
記憶を辿ってみれば藤くんの好き好き攻撃が始まったのは昨年の彼の入社後1ヶ月程してからだ。
最初は部の飲み会だった。既に部のアイドルとなっていた彼と同期の女の子の歓迎会。
君さーモテるでしょ、彼女も可愛いんだろうね、なんて揶揄する先輩社員たちに向かって彼は言った。俺、都筑さんが好きなんです、だから彼女いませんよ、と。その言葉で皆が振り返った先に居たのは浩志とから揚げを奪い合う私であった。
それからは、俺もう宣言したんでと言わんばかりに朝の挨拶と好きですは必ずセットだったし、俺この間のプレゼン頑張ったんでご褒美にキスしてくれません?と言ってくることだってあった。
あまりにストレートで裏のないその言葉は私にとっては冗談以外には聞こえなかった。だから、彼を遠ざけることはしなかった。
「多少は意識してくれてると思ってたのに…昨日の中原さんの言葉で青ざめましたよ。俺の本気伝わってないんですもん」
はて、彼は青ざめていただろうか?確かにこっと笑って私をイケナイ女だと罵ったのではなかったか。
「知ってます?中原さん、最近俺が志保さんに近づくと俺のこと睨むんですよ」
「まさか。てか、浩志はなんか目付き悪いし気のせいだよ」
「鈍いなぁ。中原さんはね、志保さんのこと俺があなたを見るのと同じ目で見てます」
そんなことがあるのだろうか。頭の中に疑問符が次々湧いてくる。
「浩志の家に泊まったこともあるし、浩志がうちに泊まったときもなにもなかったけど」
「なにもない、がイコール恋愛感情ゼロって訳じゃないんですよ。志保さん経験値低すぎです」
失礼な!と憤慨しそうになったが、彼の言葉通り私の恋愛経験値なるものは殆どゼロと言っても過言ではなかった。