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サイレントエモーショナルサマー
第19章 Renatus
「――――――!」

息荒く、目を開き飛び起きた。

暗闇にぼんやりと浮かぶ普段の自宅の光景。夢だ。今、私が見ていたのは夢だ。

呼吸を落ち着けようとTシャツの胸元を握りしめる。手が、いや、身体中が震えている。深呼吸をしようにも上手く息が吸えない。どうしよう。独りになる。どうして、私を、

「……志保さん?」

はっとすると背中にぬくもりが触れる。振り返れば起き上がった藤くんが居る。たまらず抱き着いて、あたたかい素肌に額を擦りつける。

「震えてる、どうしたんですか」
「いやだ、藤くん、お願い、」
「大丈夫。俺はここにいますよ」

背中を撫でられる内に呼吸は落ち着いていった。優しく、大丈夫大丈夫、と言いながら背を撫でる藤くんの手はあたたかくて涙が溢れだす。

「電気、点けましょっか」
「やだ、離れないで」

離れようとする気配を察して縋りつく腕に力を込める。暗い部屋の中、ただ藤くんの体温に溺れる。やっと思い出した安堵に小さく息をつくと背中をさすってくれていた手はそっと髪を梳いた。

「…ごめん、恐い夢、みたの」
「こっちこそごめんなさい。夢、見るから家に居たくなかったんですね」
「ううん、言わなかったの私だし…それに、藤くんが居れば平気だと思ったんだけど…」
「今からでも俺の家行きましょう。ちょっと離れますよ、電気点けますね」

額に口付けてベッドから出ると電気を点けてくれた。呆然と座り込む私の前に戻ってくると優しく抱き締めてくれる。大丈夫、藤くんは生きている。

「ごめん、ごめんね、藤くん」
「顔、真っ青です。気付いてあげられなくてごめんなさい」
「ちがうの、本当に…ごめん」

上手く言葉が出てこない。今は、何時なのだろう。明日も仕事なのに藤くんに迷惑をかけてしまう。涙が止まらない。

私の嗚咽が治まるまで藤くんはずっと私を抱き締めてくれていた。ありがとう、落ち着いた、と身体を離すと藤くんの親指が目尻に触れる。涙の跡を拭って私を見る顔は、私よりも泣いているように見えた。

サイドボードの時計を見ると夜中の2時だった。なんて時間に藤くんを起こしてしまったのだと申し訳なくて再び泣きそうになった。
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