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サイレントエモーショナルサマー
第19章 Renatus
「タクシー、捕まりますかね。先に呼んでおきますか」
「でも、今から移動したら藤くんまた寝るの遅くなっちゃうよ。大丈夫、私ソファーの方で起きてるし、ゆっくり寝てて」
「そういう気遣いはいりません。はい、もうちょっとしたらタクシー呼ぶんで暫く戻らなくてもいいように荷物纏めてください」
「でも、」
「でも、はもう間に合ってます。ほら、早く」
促されボストンバックを放り出したままのクローゼットの前へ向かった。私がクローゼットを開くのを確認した藤くんはにこりと微笑んでソファーに置いてあった服を着始める。
時折、彼の方を振り返りながら服やらなにやらを詰め込んでいくと着替えを終えた藤くんはそっと私の隣にしゃがみ込んだ。声はなくとも、ここにいるよ、と言っていように聞こえる。
仕事は自宅に持ち帰らないようにしているし、衣類と化粧品さえあれば戻らなくとも問題ないだろう。私の支度が整うと藤くんは電話をかけ、タクシーを呼んだ。
「いつから、ですか」
なにがと言われなくても意味はわかった。早めに部屋を出てエントランスでタクシーを待ちながら藤くんは優しく手を繋いで私に問う。
「……何年か前からかな。夏だけなんだ。あと、自分の家の時だけ」
小さく答えると藤くんは口を噤んだ。どんな夢かと問われても、私はきっと上手く答えることが出来ない。鳴り響く着信音は目覚めればどんなメロディーだったかも思い出せなくなる。ただただ、独りになることへの恐怖だけが残る。
到着したタクシーに乗り込んで藤くんの家に向かう間、彼は口を開かなかった。言葉を探しているのだろう。だが、そんなものなくたって繋いだ手の熱だけがあれば充分だった。
「ごめんね、明日も会社なのに」
「ごめんね、ももういいです。眠るのが恐かったらテレビでも見ますか?」
「あ、えっと…大人しくしてるから藤くん寝て大丈夫だよ、ほんとに」
「もっと甘えてくださいよ」
部屋に着いてから一先ずソファーに座った。ぴたりとくっついて藤くんの肩あたりに頭を預ける。藤くんも戸惑っているように見える。普段の彼ならばキスをして、私の身体に触れて、我慢できないとばかりの色っぽい表情になるのに。
「でも、今から移動したら藤くんまた寝るの遅くなっちゃうよ。大丈夫、私ソファーの方で起きてるし、ゆっくり寝てて」
「そういう気遣いはいりません。はい、もうちょっとしたらタクシー呼ぶんで暫く戻らなくてもいいように荷物纏めてください」
「でも、」
「でも、はもう間に合ってます。ほら、早く」
促されボストンバックを放り出したままのクローゼットの前へ向かった。私がクローゼットを開くのを確認した藤くんはにこりと微笑んでソファーに置いてあった服を着始める。
時折、彼の方を振り返りながら服やらなにやらを詰め込んでいくと着替えを終えた藤くんはそっと私の隣にしゃがみ込んだ。声はなくとも、ここにいるよ、と言っていように聞こえる。
仕事は自宅に持ち帰らないようにしているし、衣類と化粧品さえあれば戻らなくとも問題ないだろう。私の支度が整うと藤くんは電話をかけ、タクシーを呼んだ。
「いつから、ですか」
なにがと言われなくても意味はわかった。早めに部屋を出てエントランスでタクシーを待ちながら藤くんは優しく手を繋いで私に問う。
「……何年か前からかな。夏だけなんだ。あと、自分の家の時だけ」
小さく答えると藤くんは口を噤んだ。どんな夢かと問われても、私はきっと上手く答えることが出来ない。鳴り響く着信音は目覚めればどんなメロディーだったかも思い出せなくなる。ただただ、独りになることへの恐怖だけが残る。
到着したタクシーに乗り込んで藤くんの家に向かう間、彼は口を開かなかった。言葉を探しているのだろう。だが、そんなものなくたって繋いだ手の熱だけがあれば充分だった。
「ごめんね、明日も会社なのに」
「ごめんね、ももういいです。眠るのが恐かったらテレビでも見ますか?」
「あ、えっと…大人しくしてるから藤くん寝て大丈夫だよ、ほんとに」
「もっと甘えてくださいよ」
部屋に着いてから一先ずソファーに座った。ぴたりとくっついて藤くんの肩あたりに頭を預ける。藤くんも戸惑っているように見える。普段の彼ならばキスをして、私の身体に触れて、我慢できないとばかりの色っぽい表情になるのに。