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サイレントエモーショナルサマー
第20章 voce
◇◆
― まあ、こうなるよね
視線前方。乾杯の音頭を皮切りに部長に捕獲された藤くんは頑張って調達したビールの大半を飲まされていた。時刻は19時。飲み食いに満足した社員がちらほらと帰り始めているが、部長は藤くんを隣に従えたまま酒持ってこいと声を張り上げている。
「おい、部長が呼んでるぞ」
「あの方が呼んでいるのは私ではなく酒だね」
オレンジジュースの入ったカップを片手に村澤さんから逃れてきた浩志が私の隣に座った。幹事という名目の片づけ係の私は皆が会社を出るまで帰ることが出来ない。
「結構飲んだ?」
「俺は酒を断った」
「あれ本気だったの?あ、それ一口ちょうだい」
「週に2日も地獄見たくねえよ…見ろ、あの部長の楽しそうな顔。自分より飲むやついないのが面白いらしい」
「飲み比べて負けるのが嫌みたいだね…藤くんが気の毒だ」
浩志から受け取ったオレンジジュースの程よい酸味が口の中に広がる。藤くんは飲んでもそこまで顔色の変わるタイプではないようだが、時折部長に命じられて酒を取りに行く足元が覚束ないので相当酔っ払っていることが見て取れる。
― 捕まるなって言ったのに
あの様子では今夜は難しそうだ。ちぇ、と口の中で転がして完全に奪い取ったオレンジジュースをちみちみ飲んだ。