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サイレントエモーショナルサマー
第21章 futuro
今日はもう酒を飲みたくないとふたりでノンアルコールカクテルを飲んで、適当に料理をつまんだ。藤くんは酢豚のパイナップル以上に生のトマトが食べられないと子供っぽいことを言ってサラダに入っていたトマトを全部私に押し付けてきた。
暫くして藤くんが席を外した。なにも言わなかったが、恐らくお手洗いだろう。だが、氷が溶けて薄まったノンアルコールカクテルをすっかり飲みきってからも藤くんは戻ってこない。
10分、20分と経って流石におかしいだろと席を立つ。
― ふ、藤くんが逆ナンされてる…!
お手洗いの方角へ進んでみるとカウンター席の女性客に見事に絡まれている藤くんの姿を発見。困り顔でどうにか絡む腕から逃れようとしているが、女性客の目にはハートマークが浮かんでいるように見える。
ハンターの目だ。獲物は逃さんとするあの目。まあ、確かに薄暗い店内においても藤くんは一際目を引く存在だ。
「し、志保さん…!違いますよ、これは。ほら、俺、連れが居るんでって言いましたよね、離してください」
私の存在に気付いた藤くんの言葉で女性客の目がこちらを向く。実に雄弁な表情。え、あんたの連れってこんな女?とでも言いたげな顔。途端に気持ちがざわついてなにも言わずに踵を返した。
席に戻り荷物と伝票をひったくってそのままレジへと向かう。なんだろう。むしゃくしゃする。会計を済ませ逃げるように店から出た。
こんな感覚、記憶にない。あの女性客の蔑むような目が焼き付いて離れない。私はなにをここまで不愉快に感じたのだろう。よく分からなくなって溜息をつくと手を引かれる。
「…酷いですよ、置いてくなんて」
眉尻を下げ言う藤くんの顔を見ながらも上手く言葉が出ずぷいと顔を背けた。指が絡む感じが心地良いと思うのに、なんだか落ち着かない。
「あれはなんていうか声かけられてただけで…あの人結構力強くてですね、」
「…ふうん」
別に私は藤くんが絡まれていたことに腹を立てている訳ではない。違う、違うのだ。でも、この胸騒ぎを説明するのにぴったりな言葉が出てこない。
暫くして藤くんが席を外した。なにも言わなかったが、恐らくお手洗いだろう。だが、氷が溶けて薄まったノンアルコールカクテルをすっかり飲みきってからも藤くんは戻ってこない。
10分、20分と経って流石におかしいだろと席を立つ。
― ふ、藤くんが逆ナンされてる…!
お手洗いの方角へ進んでみるとカウンター席の女性客に見事に絡まれている藤くんの姿を発見。困り顔でどうにか絡む腕から逃れようとしているが、女性客の目にはハートマークが浮かんでいるように見える。
ハンターの目だ。獲物は逃さんとするあの目。まあ、確かに薄暗い店内においても藤くんは一際目を引く存在だ。
「し、志保さん…!違いますよ、これは。ほら、俺、連れが居るんでって言いましたよね、離してください」
私の存在に気付いた藤くんの言葉で女性客の目がこちらを向く。実に雄弁な表情。え、あんたの連れってこんな女?とでも言いたげな顔。途端に気持ちがざわついてなにも言わずに踵を返した。
席に戻り荷物と伝票をひったくってそのままレジへと向かう。なんだろう。むしゃくしゃする。会計を済ませ逃げるように店から出た。
こんな感覚、記憶にない。あの女性客の蔑むような目が焼き付いて離れない。私はなにをここまで不愉快に感じたのだろう。よく分からなくなって溜息をつくと手を引かれる。
「…酷いですよ、置いてくなんて」
眉尻を下げ言う藤くんの顔を見ながらも上手く言葉が出ずぷいと顔を背けた。指が絡む感じが心地良いと思うのに、なんだか落ち着かない。
「あれはなんていうか声かけられてただけで…あの人結構力強くてですね、」
「…ふうん」
別に私は藤くんが絡まれていたことに腹を立てている訳ではない。違う、違うのだ。でも、この胸騒ぎを説明するのにぴったりな言葉が出てこない。