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サイレントエモーショナルサマー
第21章 futuro
訝しむ私に反して藤くんは物凄く楽しそうだ。改札を通る時に離れた手は、過ぎればまた私の手を取る。私が先にエスカレーターに乗ると藤くんをやや見下ろす形になる。目線の位置が対面座位の時とよく似ていてつい顔を逸らす。
「今度はなんですか」
「…な、なんでもない」
「顔、赤いってことは怒ってはないですね」
「赤くなんかなってないよ」
エスカレーターを降りると藤くんの腕が腰へ回ってくる。人が見てる、と咎めるようにシャツを引くと悪戯っ子の顔になってから私の手を取った。
「帰ったら今日買ったやつ試しに着てみましょ。俺、薄い紫のやつが一番好きです」
電車がホームへ滑り込んでくる音にまぎれての発言にぎょっと目を見開く。完全に夜モードの藤くんはあわあわする私を促して車内へ乗り込む。
藤くんが言った薄紫のショーツは今日購入した物の中でも一番布地が少ないやつだ。藤くんにも光るパンツを穿かせてやる。そう思って、藤くんもだよ、と言うと私がなんのことを言ったのか分かったようで、もちろん、と笑った。