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サイレントエモーショナルサマー
第21章 futuro
◇◆
ひとつ、分かったことがある。メンズのボクサーパンツはTバックのショーツよりも案外履き心地がいい。感じ方は人それぞれだろうが、私は28歳にして初めてTバックなるものを体験した結果、藤くんのパンツのほうが落ち着くという結論にたどり着いた。
サイズの問題なのか、それとも昨晩伸びかけた毛を再び藤くんに剃られたせいなのか、とにかくTバックというやつは穿いているのに穿いていないような感じで落ち着かない。
「なんつー険しい顔して飲んでんの」
もぞもぞと身体を動かしているとチカの声が響く。彼女は席まで案内してくれた店員に生ひとつ、と告げてから私の向かいに座った。
「おつかれ。ま、ちょっと色々」
私が宿無しになっていやしないかとチカが連絡をくれたのは今朝のことだった。出勤に向けてばたばたと準備をしながらパンツをどうするかとアホなことを言いあっている時の電話は有難いような有難くないようななんともいえないタイミングであった。
結局、日曜は外出を渋った私に藤くんが譲った形になったからと、洗濯したばかりの新しい下着を装着して出勤することになったが、今日一日はスカートが捲れませんようにと願わずにはいられなかった。
「朝、ごめんね思い立った時に電話しようと思って」
「ううん。なんとも言えんタイミングだったけど助かったような助からなかったような…」
「今朝どこに居たの?家じゃないみたいだったけど」
「あーえっと、藤くんの家、かな」
「え、ついに結婚したの?」
何故、私の周りの人たちはすぐさま結婚というワードを出してくるのだ。呆れ半分で、ちがうよ、と答えながらお通しのよく分からない煮物に箸を伸ばす。
今朝、パンツ論争を終えて、藤くんにチカから飲みに行こうという電話だったことを伝えると、彼は自分も今日は用事があるし、女性であれば安心だからいってらっしゃい的なことを言った。迫ってきている夏季休暇にどうしても用事を入れたくない日があれば教えてくれとも言われ、私は両親の命日を答えた。
日中、再び倉庫に姿を現すようになった彼はスカート越しに私の尻に触れてご満悦だった。そんなことよりキスがしたいと言うと彼の笑みがより深くなったことは言うまでもないだろう。