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サイレントエモーショナルサマー
第21章 futuro
彼女の言っていることは理解できる。だが、理解と納得は大いに違うのだ。そもそも私がチカや浩志に抱いている感情は今、私が悩んでいるものとは大きく違っている。

「チカと浩志のことは自信持って好きだって言える。でもさ、恋愛にはならないじゃない。そこがいつから変わっていくのか思い出せないの」
「いやいや、私に恋されても困っちゃうよ。私にはユウジが居るし」
「しねーわ。ふざけるのは私の担当でしょ。役割分担ちゃんとしてよ」

もう、と息をついて白ワインを煽った。2杯目を注文しながらもつい手は煙草の箱を探す。だから持ってないんだよ、バカだな、と自分に呆れ手持無沙汰になってメニューを手に取る。

さして目新しいものでもない煤けた居酒屋のメニューを捲って適当にから揚げとアスパラのチーズ焼きなるものも追加で頼む。

「あんたさ、失敗するのがかっこ悪いと思ってんじゃないの?」

運ばれてきた2杯目のワインに口をつけながらのチカの言葉に首を傾げる。意味が分からない、という私の表情を察してかチカが再び口を開く。

「志保は料理以外はなんでも器用にこなしちゃうから多分、恋愛も上手にしたいって思ってるんだよ。自分が2回も失敗したこと許せてないの」
「そう、なのかな…」
「私はそうだと思うよ。でもさ、上手に恋愛する人なんてそんなに多くないよ。失敗したっていいじゃん。寧ろさ、失敗があったから今、藤くんと出会えてるんじゃないの」
「それは、思った。もし、晶とも三井さんとも会ってなかったら多分普通に恋して、誰かと結婚してってなってただろうし、そしたら多分藤くんとは今みたいになってなかったと思う」
「ほら。失敗は成功の元って言うじゃない。私はあんたと藤くんが成功してくれたら安心できるけどさ、もし失敗になっちゃってもそれは次の成功につながるよ」

言われて考えてみると、下半身のゆるさはさておき、私は失敗しない自分で居たいのかもしれない。だからこそ自分一人ではどうにも出来なかった過去の失敗が許せず、未熟な過去はいつまでも己の胸に絡みついて離れてくれなかった。チカは中々上手いことを言う。
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