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サイレントエモーショナルサマー
第21章 futuro
「恋はね、一人するもんじゃないの。向き合って、ぶつかって、形作っていくものなの。ほいほい相手捕まえてさっさとセックスしちゃう志保は忘れてるかもしれないけど、ぶつかり合ってからのセックスの方が多分ずっと気持ち良いよ」

藤くんも似たようなことを言っていた。好きな相手との方が気持ち良いと思わないのか、と。その辺の感覚はいまだにぴんと来ない。ただ、ぼんやりと思うのは大事に抱かれることが快感に変わるのはどうやら藤くんが相手の時だけらしいということだ。

藤くんのキスには中毒性がある。それに、彼は物凄く安堵をくれるいい匂いがする。仮に藤くんと同じくらいキスが上手くて、いい匂いのする人が私の前に現れたとして、その人とセックスをした時に藤くんとする時ほど気持ち良いと感じることができるのだろうか。

「……なんか頭痛くなってきた」
「無駄なこと考えるからよ」
「無駄とは失礼な」
「無駄でしょ。今、志保がなに考えてたか分かるよ。藤くんと同じ条件の別の人としても気持ち良いのかとかアホなこと考えてたでしょ」
「…………ご明察」
「賢いのかバカなのかどっちかにしてよ。あ、あれか、賢すぎるからダメなのか」

完全に私をバカにした溜息を吐いて注文を赤ワインに切り替える。志保は?と問われるが、赤は辞めてくれというと私の分の白ワインも頼んでくれた。

「前にさ、藤くんのいいとこ探してあげなって言ったの覚えてる?」
「お、覚えております…」
「あれ、やっぱりナシ。いいよ、探さなくて」
「んん?なんで?」
「志保にはそのスタンスは向いてないって今日になってわかった。いいですか、志保ちゃん。恋は頭でするもんじゃありません。心でするんです。とりあえず藤くん相手にその心のシャッターをもう少しだけ開けてあげなさい」

ポエマー炸裂のチカにぽかんと口を開けるとその口にアスパラを押し込まれた。もごもごと咀嚼しながらチカの言葉も噛み砕く。
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