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サイレントエモーショナルサマー
第22章 gelosia
不自然なほど会話のないまま仕事を続け、昼休憩の時間になると浩志はなにも言わず財布を片手にフロアを出て行った。

消えていく後姿を見送って溜息をつく。どうにもやりづらい。なんだよ、もう。ふん、と鼻で息をすると可愛らしいランチトートを持ったミヤコちゃんがこちらへ寄ってくるのが見えた。私もPCにロックをかけ、財布を片手に立ち上がる。

ミヤコちゃんが選んだのは会社から15分ほど歩いたところにある洒落たカフェ風の店だった。おすすめだというサラダランチは大皿に嫌がらせのように盛られたサラダと小さなサンドイッチのセットプレートで、申し訳ないが魅力を感じなかったので私は焼きカレーを頼んだ。

「…ミヤコちゃんってさ、彼氏居るの?」
「居ますよ。多分、今の彼と結婚すると思います」

今時の女の子の恋愛観を知ろうとミヤコちゃんに声をかけ、ランチに連れ出した訳で、意を決して問えば、思いの外すぱっと答えが返ってきたのでつい戸惑った。

「あ、あのさ…その…彼氏と付き合おうってなったきっかけってなんだったの?」
「…もしかして、都筑さん、藤と上手くいってないんですか?」
「え!?」

これまた想定外の切り返しである。口に運ぼうとしていたスプーンは行き場を失くす。慌てふためく私にそっと笑ったミヤコちゃんは上品にサラダを一口食べてまた口を開く。

「この間、都筑さん藤の服着てたじゃないですか。それにあいつも最近大人しかったんでてっきり付き合い始めたのかと思ったんですけど」
「いや、あー、うん、今、お試し期間と言いますか…」

藤くんの家に転がり込んでほぼセックスしかしていないと言ってしまう訳にはいかない。苦笑いを浮かべ、お冷のグラスへ手を伸ばす。

「決め手に欠けるって感じですか?実際あいつモテますし、付き合うってなったら不安かもしれないですけど、多分都筑さんが思ってるより藤は都筑さんしか見てないんで安心して平気だと思いますよ」
「な、なんでミヤコちゃんがそこまで…」
「私、学生の頃藤とバイト先一緒だったんですよね。まあそんなに親しくなかったですけど。で、会社入ったらあいつ居るし、部署一緒だし…」

まるでそれが不本意だとでも言うようにミヤコちゃんの可愛い顔が険しくなる。そうなんだ、と言いながらやっと焼きカレーを口に運んだ。温くてあまり美味しくない。
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