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サイレントエモーショナルサマー
第22章 gelosia
― つつかなきゃ良かった
触れぬのが得策だと思っていたのに。でも、嫌だったのだ。よく分からないまま気まずいことも、浩志の見慣れない表情が成瀬ちゃんに向いていたことも。
何日ぶりか分からない煙草は煙くて、苦くて、今までのように気持ちを落ち着かせてくれるものではなくなっていた。頭がくらくらして火を点けたばかりのそれを灰皿に放り込む。
もやもやする。そっと目を伏せて深く息を吸い込んだ。肺を空っぽにする勢いで吸い込んだ酸素を吐き出す。
仕事だ。私は今、会社に居る。仕事をしなければならない。両手で、ぱん!と頬を叩いて鉄の扉を開く。
「どうした、都筑。殺気立ってるぞ」
「立ってません。はい、リンゴジュースです。お待たせしました」
「お、おう…すまん。お前明日から夏休みだろ…なんだ予定潰れたか」
「潰れてません。離席して申し訳ありませんでした。仕事に戻ります」
フロアに戻って部長にリンゴジュースを渡した。デスクに戻り、隣を見ると浩志のデスクは綺麗に片づけられていてPCの電源も落ちている。言葉通り今日は会社には戻らず直帰するらしい。
言い逃げかあの野郎。なにがお前の休み明け時間作ってくれ、だ。私が夏季休暇を取ったところで暇を持て余すことなんか知ってるくせに。
無性に苛立って、ついデスクを叩きそうになった。それをなんとか堪え、握った拳を意味もなく振った。
今、私は比較的平和に過ごしている筈だ。三大欲求は満たされている。それなのに、なんだ。何故、こんなに苛々するのだ。
落ち着いて座っていられず、先に倉庫での作業を片付けようと時計を見上げると、先どころかちょうど倉庫にこもり始める時間だった。苛々している内に随分と時間が経過していたらしい。この調子では今日は残業確定である。
くそ、と口の中で転がしてバインダーを手に席を立った。どうせ中に人なんか居やしないのだと乱暴にドアを開くと激しい音を立てて棚にぶつかる。バラバラと棚から落ちてくる備品を拾い上げるのも億劫だった。
人目がないのをいいことに力任せにバインダーを床に叩きつける。気分が落ち着かない。
「凄い音しましたけど…え、これ、どうしたんですか」
はっと顔を上げると怪訝な顔をした藤くんが倉庫に入ってきていた。ごめん、なんでもない、と小さく言ってとっ散らかった備品に手を伸ばす。
触れぬのが得策だと思っていたのに。でも、嫌だったのだ。よく分からないまま気まずいことも、浩志の見慣れない表情が成瀬ちゃんに向いていたことも。
何日ぶりか分からない煙草は煙くて、苦くて、今までのように気持ちを落ち着かせてくれるものではなくなっていた。頭がくらくらして火を点けたばかりのそれを灰皿に放り込む。
もやもやする。そっと目を伏せて深く息を吸い込んだ。肺を空っぽにする勢いで吸い込んだ酸素を吐き出す。
仕事だ。私は今、会社に居る。仕事をしなければならない。両手で、ぱん!と頬を叩いて鉄の扉を開く。
「どうした、都筑。殺気立ってるぞ」
「立ってません。はい、リンゴジュースです。お待たせしました」
「お、おう…すまん。お前明日から夏休みだろ…なんだ予定潰れたか」
「潰れてません。離席して申し訳ありませんでした。仕事に戻ります」
フロアに戻って部長にリンゴジュースを渡した。デスクに戻り、隣を見ると浩志のデスクは綺麗に片づけられていてPCの電源も落ちている。言葉通り今日は会社には戻らず直帰するらしい。
言い逃げかあの野郎。なにがお前の休み明け時間作ってくれ、だ。私が夏季休暇を取ったところで暇を持て余すことなんか知ってるくせに。
無性に苛立って、ついデスクを叩きそうになった。それをなんとか堪え、握った拳を意味もなく振った。
今、私は比較的平和に過ごしている筈だ。三大欲求は満たされている。それなのに、なんだ。何故、こんなに苛々するのだ。
落ち着いて座っていられず、先に倉庫での作業を片付けようと時計を見上げると、先どころかちょうど倉庫にこもり始める時間だった。苛々している内に随分と時間が経過していたらしい。この調子では今日は残業確定である。
くそ、と口の中で転がしてバインダーを手に席を立った。どうせ中に人なんか居やしないのだと乱暴にドアを開くと激しい音を立てて棚にぶつかる。バラバラと棚から落ちてくる備品を拾い上げるのも億劫だった。
人目がないのをいいことに力任せにバインダーを床に叩きつける。気分が落ち着かない。
「凄い音しましたけど…え、これ、どうしたんですか」
はっと顔を上げると怪訝な顔をした藤くんが倉庫に入ってきていた。ごめん、なんでもない、と小さく言ってとっ散らかった備品に手を伸ばす。