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サイレントエモーショナルサマー
第22章 gelosia
気が付いたら浩志はいつも私の隣にいた。男性相手には気を張って、外面を張り付けて接していたのに、浩志にはいつの間にか言いたいことを楽に言えるようになっていた。

飲みの誘いも、遊びの誘いも、断り続けてきた私が浩志の誘いだけはなんだか安心できて、嬉しかった。ああ、この人は違うのだ、と思った。チカと一緒だ。この人とは友人になれる。そう思ったから浩志の傍は気持ちが楽だった。

どこで、なにを間違えたのだろう。いや、違う。浩志と過ごしてきた日々が間違いなんかであって欲しくない。私にとっては確実に尊い時間だった。

浩志は私と同じように思っていなかったのだろうか。なんなんだ。友人でないならただの同僚なのか。折角、気持ちが落ち着いてきたのに無性に苛立って力任せに藤くんのシャツを引っ張る。

「ちょっと、志保さん。シャツ、伸びちゃいますよ」
「あ、ごめん」
「もしかして中原さんとなんかありました?」
「…!なんで、」
「志保さんをこんな風に感情的にする人間は俺の知る限り中原さんしか居ないですから」

鋭すぎる発言に目を瞠り、藤くんの腕の中から逃れた。背中を向けて俯くと、その背にそっと藤くんの手のひらが触れる。

「まさか、告白されたりしてないですよね」
「………」

似たようなものだ。辛うじてお前は友達などではなくただの同僚だ、という可能性もなくはないが、浩志の去り際の表情的にその可能性は低いだろう。

「俺の言った通りだったでしょ。中原さんは志保さんのこと友達だと思ってないんですよ、あの人は女性として志保さんのことを想ってます」
「どうして藤くんには断言できるの?」
「俺が女性として志保さんのことを大切に想っているからです。あの人のあなたを見る目は俺と同じだ。前にも言ったでしょ」

自分の鈍感さに反吐が出る。恋愛における思考回路が大破してしまった弊害がすぐ傍でも起こっていたのだ。勘が良いつもりでいたのだが、結局私は身近な人間のあからさまな下心から逃げる為のセンサーしか機能させていなかったらしい。
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