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サイレントエモーショナルサマー
第22章 gelosia
身体の火照りが落ち着いていくのを感じながら目を伏せる。新しいものに替えたばかりだったシーツは乱れて汚れている。幾らあっても足りないですね、と笑っていた藤くんの顔が瞼の裏に浮かぶ。

ぎしりとベッドが軋んだかと思うと藤くんの手が髪に触れた。目を開くが映るのは枕だけだ。緩慢に顔を動かし、藤くんの方を向く。Tシャツとボクサーを纏った彼が私の顔を覗き込んでいる。

「はい、こっち向いてください」

手に促されるまま仰向けになった。視線を動かすと藤くんが新しくつけたキスマークが目に入る。

「目、閉じてください」
「…ん」

そっと目を瞑るとひやりとしたものが瞼に触れた。鼻腔を擽るベルガモットの香り。ああ、昨日帰り道で買ったふき取り式のメイク落としか。

「志保さんって睫毛長いですよね。ていうか、密度が濃いのかな」
「藤くんの方が長いよ。マスカラ塗ってないのにずるい」

ぱしゃぱしゃと水っぽい音がする。コットンに沁み込ませているのだろう。優しくメイクを落としてくれる藤くんの指の感触はセックスの時と同じくらい気持ち良い。

とにかくなにも考えたくなくて、藤くんの家に帰ってくるなり抱き着いて何度もキスをした。あれは何時ごろだったっけ。確か会社を出たのは21時ごろだった。

今は、何時だろう。私たちはどれだけ触れあっていたのだろう。うとうととする頭ではもう時間も把握できない。

「あっ…!」

眠りそうになると、かぷりと乳房を噛まれた。驚いて目を開けると藤くんはにやにや笑っている。

「裸の眠り姫がかわいかったんで、つい」
「……ばか」
「ちょっと志保さんにお話したいことがあったんですけど、志保さん眠そうなんで明日にしますね」
「長くないなら今、聞くよ」
「長くないですけど、明日にします。もう寝ましょ」
「ん…歯みがいてくる」
「ついでに寝間着着てください。裸のままで居られたらやばいです」

確かにこのまま裸で居たらまた乳を噛まれるかもしれない。そんなことをされたら簡単に興奮して、もっと、とねだってしまうに違いない。

のそのそと起き上がってから藤くんの頬にキスをする。いつの間にかソファーに私の寝間着を出しておいてくれたようだ。
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