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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
「嫌だったら全然どうにかするんで…あの、その、勝手にすみません」

流れるような毎日で私は藤くんが旅行に行きたがっていたことも、藤くんとなら行ってもいいかも、といった発言をしたこともすっかりさっぱり忘れていた。

「ありがとう、藤くん。ごめんね、私ももう少し休み中のこと考えれば良かったね。甘えっぱなしでごめんね」
「いや…ほんと、これは俺が勝手にやったことなんで…」
「嬉しいよ。旅行なんて何年振りだろ」
「…!い、行ってくれますか…?」
「うん。だって、折角藤くんが手配してくれたんだもん」

素直に、嬉しかった。戸惑いや不安がなくはない。この十日近く、藤くんの家でお世話になってみたからこそ、素直に嬉しいと感じることが出来たのだと思う。

ぼんやりではあるが、藤くんと私は日々の過ごし方が似ているように思う。きっと、藤くんとなら久方ぶりの旅行も楽しむことが出来るだろう。

「志保さん」
「はい」
「抱き締めて、いいですか」
「いつもなにも言わないのに」
「今は無性に確認したかったんで」
「なにそれ。どうぞ、抱き締めてください」

佇まいを直すと恐々と藤くんの腕が伸びてくる。変な藤くん、と笑うと抱き寄せられる。息を吐く姿は、肩の荷が下りたと言っているように見えた。

「はー…俺まじで当日になっても言えないんじゃないかって、もう…」
「なんか休み中の話してないなとは薄ら思ってたんだよね」
「すみません…いつ言い出すかって迷ってたらこう休み中のことに話を持って行きづらくて…」
「今日はゆっくりして明日旅行用にちょっと買い物行こっか。あと、1回家に色々取りに行きたい」

そうしましょう、と答えるように藤くんの手がゆったりと後頭部を撫でる。彼のTシャツに頬ずりをして、背中に腕を回した。いくら室内の冷房が効いていたってぴたりとくっついていると流石に暑かった。でも、この暑さが泣き出しそうになるほど尊い。
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