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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
「昨日、もう一つ話、詰めましょうって言ったこと覚えてます?」
不穏な発言にうっとりと閉じかけていた目を開く。もがいて藤くんの腕の中から逃れ、距離を取った。おう、藤くんが物凄く綺麗に笑っていらっしゃる。
「覚えてない」
「それは覚えてる顔ですね」
「あー知らない、知らないなー覚えてないなー」
「あのね、中原さんが逃げてる内はいいですけど、あの人が動きそうってなった今、俺には待ってる余裕がなくなりつつあるんですよ」
「だから浩志の名前出さないでってば!知らないよ、あいつ今朝電話出なかったし、メールも返ってこないし」
「いつの間に中原さんに電話なんかしたんですか。逃げるなら逃げ続けてくださいって言いましたよね」
「別に逃げてないし、一晩経ったら浩志の気の迷いかと思ったから電話してみただけで、」
ソファーから立ち上がり、じりじりと後退。膝の裏にシーツの感触。1K8畳のアパートは逃げ場が少なくて困る。
綺麗に笑っていた顔が、眉間に皺を寄せた険しいものに変化していた。藤くんは立ち上がらず、ソファーに座ったままその険しい顔で私をじっと見ている。
嫉妬だ。直感的にそう思った。今、彼の中に渦巻いているのは浩志に対する嫉妬の念だ。
それは私にはよく分からない感情だった。だが、ざわざわと胸の奥が煩くなる。私は、その感情を知っているのか。
はっと目を瞠る。昨日、成瀬ちゃんに向いた浩志の見慣れない表情をみた時に感じたもの。そうか、あれは紛れもなく嫉妬だったのだ。少し前までは一生理解することが出来ないと思っていたのに。可能ならそんな感情なんか分からないままで居たかった。
不意に頬になにかが触れた。白んでぼやけていた視界に泣き出しそうになった藤くんの顔が映える。いつの間にか立ち上がって距離を詰めていた。
「…ごめん、藤くん」
嫉妬がこんなにも苦しい感情だなんて知らなかった。藤くんは私と浩志が接する姿を見て、こんなにも胸を引き裂かれるような思いをしていたのだろうか。
「……その、ごめんの意味は今は聞かないことにします」
「うん…」
頬を撫でる指。不安そうな表情の藤くん。私が、こんな顔をさせているのだ。嫌だ。こんな顔、見たくない。私をいつも安心させてくれるときのようににこりと笑って欲しかった。
不穏な発言にうっとりと閉じかけていた目を開く。もがいて藤くんの腕の中から逃れ、距離を取った。おう、藤くんが物凄く綺麗に笑っていらっしゃる。
「覚えてない」
「それは覚えてる顔ですね」
「あー知らない、知らないなー覚えてないなー」
「あのね、中原さんが逃げてる内はいいですけど、あの人が動きそうってなった今、俺には待ってる余裕がなくなりつつあるんですよ」
「だから浩志の名前出さないでってば!知らないよ、あいつ今朝電話出なかったし、メールも返ってこないし」
「いつの間に中原さんに電話なんかしたんですか。逃げるなら逃げ続けてくださいって言いましたよね」
「別に逃げてないし、一晩経ったら浩志の気の迷いかと思ったから電話してみただけで、」
ソファーから立ち上がり、じりじりと後退。膝の裏にシーツの感触。1K8畳のアパートは逃げ場が少なくて困る。
綺麗に笑っていた顔が、眉間に皺を寄せた険しいものに変化していた。藤くんは立ち上がらず、ソファーに座ったままその険しい顔で私をじっと見ている。
嫉妬だ。直感的にそう思った。今、彼の中に渦巻いているのは浩志に対する嫉妬の念だ。
それは私にはよく分からない感情だった。だが、ざわざわと胸の奥が煩くなる。私は、その感情を知っているのか。
はっと目を瞠る。昨日、成瀬ちゃんに向いた浩志の見慣れない表情をみた時に感じたもの。そうか、あれは紛れもなく嫉妬だったのだ。少し前までは一生理解することが出来ないと思っていたのに。可能ならそんな感情なんか分からないままで居たかった。
不意に頬になにかが触れた。白んでぼやけていた視界に泣き出しそうになった藤くんの顔が映える。いつの間にか立ち上がって距離を詰めていた。
「…ごめん、藤くん」
嫉妬がこんなにも苦しい感情だなんて知らなかった。藤くんは私と浩志が接する姿を見て、こんなにも胸を引き裂かれるような思いをしていたのだろうか。
「……その、ごめんの意味は今は聞かないことにします」
「うん…」
頬を撫でる指。不安そうな表情の藤くん。私が、こんな顔をさせているのだ。嫌だ。こんな顔、見たくない。私をいつも安心させてくれるときのようににこりと笑って欲しかった。