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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
「笑ってください。俺はどんな志保さんも好きですけど、志保さんはやっぱり笑った顔が一番素敵です」
「私、どんな顔してる……?」
「泣きそうな顔してますよ」
「藤くんも似たような顔してる」

あなたも笑ってよ。そんな思いで藤くんの頬へ手を伸ばす。どうしたら良いのだろう。なにも思いつかない自分の無力さに苛立ちが込みあげる。

伸びをして、藤くんの唇に自分の唇を寄せる。そっと触れるだけのキスは胸のざわつきを落ち着かせてくれる。

「…好きです。志保さん、俺はあなたが居れば他に何もいらない」

もう何度も聞いている、好きです、の一言が今は無性に嬉しくてたまらない。

私も、と言いたかった。それなのにその声は喉の奥に引っかかって、薄く開いた口からは情けない音が漏れただけだった。

頭の中にぼんやりと浮かぶ様々な浩志の表情が私から声を奪った。なんでよ。なんでここで出てくるの。あなたは私の友達でしょう。

浩志のバカ野郎。さっきまで初めての藤くんとの旅行だとちょっと浮き足立ちそうだったのに。

「……暑いですけど、ちょっと外歩きましょうか。志保さんの好きなアイスたくさん買って帰ってきましょう」

にこりと笑っていたけれど、なんだか強張って見えた。うん、と小さく答えて私も無理やり笑った。

アパートを出てから近くのコンビニでとりあえずふたつだけアイスを買った。藤くんは迷わずチーズケーキのアイスを選んで、私も彼を真似た。

当たり前のように繋いでいた手は、今、行き場所を探すかのように彷徨っている。

うるさい蝉の鳴き声が情けない私を笑い飛ばしているように聞こえた。うるさいうるさい。お前に言われんでも分かっている。上手く藤くんの顔が見られないのは逃げ続けてきたツケだ。

「藤くん、私と一緒に居て辛くない?」

10分ほど歩いて大きな公園に差し掛かった。木陰のベンチへと進んでいく背中に向かってぽつりと言うと、藤くんが振り返る。
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