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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
「どうしてそんな風に思うんですか?」
「……なんとなく?」
「辛くないですよ。まあ、その、中原さんが絡むと志保さんって憎い人って思いますけど…でも、俺は志保さんが近くに居ればどんなに辛いことでも辛くないです」

すっかり食べ終えたアイスの包装紙をゴミ箱に放って藤くんは再び私に背中を向ける。空いた手がひらひらと私を誘うように揺れていた。

私もゴミを捨てて、ちょっとだけ駆け足で藤くんに追いつく。そっと手に触れると指が絡みつく。汗ばんで熱い、大きな手のひら。暑いけれど、離したくない。

乾いた木々の香りを感じながら、じっとりと熱を持ったベンチに腰かけた。言葉なく寄り添って、ほっと息を吐く。首筋を伝う汗の感触が心地悪いと思うのに、なぜだかこの時間がずっと続いて欲しかった。

私はまだ、恐いのだろう。多分、藤くんが私に向ける愛情が深いからこそ、恐いのだ。

チカの言葉がふと脳裏を過ぎる。彼女は私が上手に恋をしたがっているんじゃないかと言っていた。上手な恋ってなんだよ、と思う。そうだ、チカの言う通り世の中には上手な恋をする人なんてそう多くないし、そもそも逃げ続けてきた私に今さら上手な恋が出来る筈がない。

もう少し、もう少し。あとちょっとだけ。踏み出す準備はきっともう出来ている。

「藤くん、」
「はい、なんですか」
「あのね、」

藤くんに無性に今までの私を知ってほしいと思った。だが、下手くそになった言葉がぎゅっと喉の奥に詰まる。くそう、意気地なしめ。

早く言っちゃえよ、と蝉の鳴き声が私を急かす。うるさい、鳴き止め。私にもタイミングと心の準備というやつがあるのだ。

「無理しなくていいですよ。すみません、俺が余裕ないとか言ったから、」
「いや…えっと、そうじゃ…」

出端を挫かれた。いつの間にか肩に力が入っていたらしく、へにゃりとそれが抜けていく。

今じゃ、ないのか?
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