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サイレントエモーショナルサマー
第3章 檻のなかの土曜日
「バカぁ……も、やだ…藤くんなんか嫌いだ…」
「……それは傷つくなぁ」
「わ、たしを……んっ…嘘つ、きにする人は…大嫌い……」
「志保さん…?」
涙が溢れだす。それが気持ち良さや生殺しの辛さから来ているものではないと察した藤くんは慌てた様子で身体を離し、そのまま反転させる。
ぐずぐずと洟を啜りながらその情けない顔を隠すように藤くんの胸の中に飛び込む。肌触りの良い彼のシャツに涙が染み込んでいく。
「ごめんなさい、ちょっと意地悪が過ぎましたね」
「藤くんなんか嫌いになってやる」
ごめんなさい、とまた小さく言ってぽんぽんと頭を撫でてくれる。嫌な夢を見た所為だ。こんなに簡単に泣いてしまったのは自分でも予想外。
「…分かりました、俺の負け。いつかでいいです。いつか、俺のこと好きになってくれたらそれでいいです」
「………もうならない」
「志保さんが大好きなセックスしてる内に俺のこと好きになってくれる可能性に賭けます」
「バカなの?」
「バカですよ。でも、志保さんもバカですよね。それに、俺とのセックスはもう好きでしょ」
「……後半は否定しない」
さっきからバカだバカだと言うが、私は案外察しの良い女だと社内で評価されていることを彼は知らないのだろうか。
でもってその他称察しの良い女は私を抱き締める藤くんの腕の震えで幾つか余計なことを想像するのである。
恐らく、藤くんは私の反応如何によっての出方を何パターンか用意しておいたのだろう。彼も賢い人だ。押して押して押しまくり、私が落ちれば及第点。たった今、彼が言ったのはきっと最後の選択肢。
私の要望通りただのセフレになることよりも、私に嫌われることの方が避けたい事案らしい。しめた。これは使えるワードを覚えたぞ。最低な女だ、私は。