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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
今は、いい。乱暴な言い方をすると、私は彼の監視下にある。藤くんは私が出ていくと言うまで部屋に置いてくれるらしい。

墓参りが終わって、8月が過ぎ、9月に入って暫くすれば私は自宅で眠ることが出来るようになる。元の生活に戻った時、ふわふわせずに居られるのかというと物凄く自信がない。

今の会社は年次など関係なく、みな一定の日数の夏季休暇を取得する。平日の五日間と、二週分の土日を合わせた計九日間。今日が二日目で、藤くんが手配してくれた旅行は四日目に当たる火曜からの二泊三日だ。

夏季休暇最終日の日曜は両親の命日だ。私を肯定してくれることもなく突然この世を去ったふたりの墓参りを毎年欠かしたことはない。

「次の日曜は予定いれたくないって言ってましたよね。で、前日の土曜も一応避けるじゃないですか。そしたらやっぱりもう旅先か、来週の金曜ですよ」

頭の中でカレンダーを浮かべているのは彼も同じらしく、さらりと言って詰め寄ってくる。う、この顔は本気の顔だ。

「りょ、旅行は藤くんと楽しみたいです」

テーブルの下でつんつんと彼の足をつつきながら言う。にこっと微笑んだ藤くんは、じゃあ金曜日ですね、と言った。やはり諦める気はないらしい。

「もしさ、私がこの人の方が藤くんより良いってなっちゃったらどうすんの?」
「可能性は低いと思いますけど、そうなったら嫌なんで志保さんに気がある奴は絶対ダメです」

なるほど。私もそうなる可能性は低いだろうと思う。とりあえず隼人の優しいキスはどきりともしなかった。

それに、藤くんと過ごす時間を、愛おしいと感じる自分もちらほらと顔を出している。もう少しだけ、自信が欲しい。

なにか、決定的なことがあれば、とも思う。そうだ、ミヤコちゃんも決め手に欠けるって感じですか?と言っていた。まさにそれだ。自信に加えて、なにか、決め手が欲しい。

うーん、と思い悩んでから藤くんの顔をじっと見つめる。ああ、キスがしたい。何度もしてるのにやっぱり藤くんの顔を見ているとキスがしたくなる。

「…藤くん、私の顔見てるとどんなこと思う?」

なんとなしに問う。藤くんはきょとんとしてからにこりと笑った。

「好きだなって思います。あと、触れたいし、キスしたいし、セックスしてるときの気持ちよさそうな顔を思い出します」
「う、うん。もういい、充分。過激な発言はお控えください」
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