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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
電話の向こうの声は聞こえてこないが、どうやら想像通り飲みの誘いらしい。恭平くんや友人たちと電話をしている時の藤くんは勿論のことタメ口で、何度見てもその姿は新鮮だ。
「……分かったって。行くよ。はいはい、じゃあ後でな」
かなりしつこく念を押されているらしい。ふふ、と笑って見ていると通話を終えた藤くんが溜息を吐く。
「……18時から飲むらしいです」
その言葉で視線は店内の時計を探した。16時35分。場所を問うと、ここから30分はかかる場所に呼び出されたようだ。
「いってらっしゃい」
「あいつ、明日代休らしいんでちょっと帰り遅くなるかもしれないですけど…」
「うん、分かった」
「一人で眠れます?不安だったら電話くださいね」
「多分、藤くんの家なら平気だよ。もし微妙だったら電話するかテレビ見て藤くんが帰ってくるの待ってるね」
私が言うと、藤くんは不安そうな顔で私の髪を撫でる。
藤くんの腕の中では今のところ毎晩ぐっすりと眠ることが出来ている。夢を見ることもなく、朝になって自然と目が覚めたとき真っ先に視界に入ってくるのは優しく微笑んだ藤くんの顔だ。
「………志保さんも一緒に来ます?」
「……ううん、いい」
「言うと思った」
「私、セックスした人とは外食外出その他諸々しないって決めてるの。例外は藤くんだけだよ」
「知ってます。前に恭平から聞いたんで。志保さんが家に上げてくれたってのも、ああ俺って特別かって思ってニヤニヤ堪えるの大変でしたよ」
「……あんまり堪えられてなかったと思うけど」
そうでしたっけ?と素知らぬ顔をして藤くんは立ち上がった。お、逃げるつもりか。ずるいなぁ。