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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
「い、家にあるかも……今、外だからすぐ帰って探します」
『取りに行くから見つかったら電話くれ。じゃあな』
ぶつんと音を立てて通話が切断される。くそ、と思うが、そもそも浩志はこういう人だった。仕事モードの時は稀にしか雑談に応じてくれない。
自宅に戻らねばならない理由が出来てしまった。恐らく明日までに必要なのだろう。もし前に使っていた鞄に入ってなかったらその時は知らんぞ。小さく息をつき、自宅マンションへ戻る為の電車に乗った。
程々に混み合う車内でなにやら奇妙な視線を感じたような気がしたが恐らく気のせいだろう。
最寄駅で電車を降り、蒸し暑さに負けてコンビニに一度逃げ込む。アイスコーヒーのカップ片手に徒歩5分の道のりをゆったりと進む。
― どうかうっかり隼人に会いませんように
頼む、神様。あなたの存在なんて普段は信じてないけどよろしくお願いします。念を込めながらエントランスを覗き込む。
エレベーターは危険だ。非常階段を使おう。人の気配に意識を集中させつつ裏手に回ろうと踵を返す。
一歩、足を踏み出すと視界の端をなにかが過ぎった。
― ん?
影を感じた方を振り返るがなにもない。なんだろう。気のせいか。ふ、と息を吐き再び裏手に回ろうと振り返る。
「―――!」