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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
だが、問題はこの男である。とりあえず、私はこの男に気後れの意味を問いたい。

「…あの頃のことは過去にする。お前がエサ寄越せっつーならエサもやる。だから、もう一度やり直そう」
「……はい?」
「お前は俺が思ってるよりいい女だった。俺はお前を手に入れたい」
「待って。あんた多分メンタル弱ってんだよ。自分で言うのもなんだけど私はいい女でもなんでもないし、それに今はもう晶のことなんとも思ってない」

恐らく、晶は今、熱でも出しているのだ。だからこいつの目にうっかり私がいい女に見えている。もし、仮に本気で晶が私をいい女だと思っているとしても私にはもう晶の言葉の数々を信じることは出来ない。

私の中で晶は甘言ばかりのくそ野郎なのである。お前を手に入れたい、なんてもしかしたら言われてきゅんときてしまう女性も居るかもしれないが、正直言うと私の感想は、お前ヤりたいから言ってんだろ、だ。

「あんた私とセックスしたいから寄り戻したいの?」
「セックスはしたい。けど、今はお前とだからヤりてえ」

これは結構 想定外の回答だ。晶は女なら誰でもいいのだと思っていたのだが、6年の内にこんなことまで言えるようになったらしい。

「……この6年、なにしてた?」
「今、そんなことどうでもいいだろ」
「どうでも良くない。私は晶のこと何度も夢に見て、その度に好きだとか愛してるとかそんな嘘もうこりごりって思った」
「……悪かった」
「晶は私のことなんか忘れてるとも思ってた。綺麗さっぱり忘れて、どこかで別の人とあっさり結婚とかしてんじゃないのって思ってたよ」
「してねえよ。まあ…そりゃ付き合ったり別れたりとかしてたけど…お前に再会した日は2年付き合ったやつと別れた日で…って無駄なこと言わせてんじゃねえよ」
「ほら、晶は私が居なくたって普通に生活できる。恋もできる。でも、私はそうじゃなかった。今、やっと手探りで色々思い出そうとしてるところなの。お願いだから私の邪魔しないで」

立ち止まっていたことも、逃げ続けていたことも自分の意志だった。それは晶が命じた事ではない。私が勝手に、もうめんどくさい、信じらんない、気持ち悪い、とほっぽり出したのだ。

私は今、逃げてきたことと向き合おうとしている。そう思うようになったのは藤くんの存在があるからだ。
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