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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
ぶーっと鈍い音が響く。股間のバイブの音ではない。スマホだ、スマホが鳴っている。きっと藤くんだ。藤くん助けて、お仕置きでもなんでも受け入れます。そんな思いで紙袋をじっと見つめて居ると着信が切断されたのか音が鳴り止んだ。

「藤くん……」

視線を巡らせて時計を見上げる。20時53分。ダメだ。思っていたより時間が経ってない。藤くんは今日は帰りが遅くなるかもしれないと言っていた。恐らく終電まで恭平くんと飲むのだろう。

喉が渇いた。それにお腹も減った。最早、バイブの刺激も気持ち良いのかどうかも分からない。

これは悪い夢かなにかか。ああ、そうだ、きっとそうだ。諦め半分で目を閉じようとするとインターフォンが鳴り響いた。

「…!」

誰だ。隼人が帰ってきた?やっぱり藤くん?この押し方はチカじゃない。もう誰だっていい。早く助けて。

足音が聞こえる。晶が閉めて行った廊下とリビングを隔てるドアがゆっくりと開いた。

「つ、づき…?」
「ひろ…」

どさりと音を立てて浩志は手に持っていた荷物を床に落とした。愕然とした表情で私を見ている。見られた。最悪だ。浩志にはこんな姿見られたくなかった。

ああ、そうだ、彼がこの部屋に来る可能性だって十分あったじゃないか。何故、来ないと思っていたのだろう。

「……俺は説明を求めた方がいいのか」
「お、お聞きになりたければ」
「聞きたいような聞きたくないような…」
「えっと…その…なんというか新手の放置プレイといいますか…」
「新手過ぎるだろ!誰にやられた。藤か」
「いや、藤くんはね激しくて長いけどプレイとしてはいたってノーマルでって…あ、」
「……お前やっぱり藤と一線超えてんのかよ」

はあ、と深い溜息。顔を逸らして気まずそうにがしがしと己の髪を掻き撫ぜる。

浩志は、今、やっぱりと言った。どうして。いつから気付いていた?

とにかく色々と弁明したい。あと、この拘束を外して欲しい。ごめん、浩志。そう思いながらおずおずと口を開く。

「な、中原さん…大変申し訳ないのですが…その、このテープをですね、取って頂きたいんですけども」
「……っ…」
「み、見たくないと思うけど…ごめん、えっと…取って頂いてから色々とお話を…」

浩志が顔を真っ赤に染め上げた。彼にはこんな姿見られたくなかったが、見られてしまったものはもうしょうがない。
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