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サイレントエモーショナルサマー
第23章 vacanza
「なんでだよ。お前…全然藤のことなんか相手にしてなかっただろ。なんで今になって藤なんだよ」
「ちが…これには、色々訳が…まだ、付き合ってるというか…」
「ふざけんなよ。お前が…お前が、恋なんかいらねえって、俺が居れば楽だってそう言ったんだろ」
力なくぽつぽつと言いながら、浩志の中に苛立ちが生まれているのが分かった。
私は何度も彼に言った。多くのことを語り合う中で、恋愛なんかしなくたって、浩志やチカが居れば充分だと。浩志と一緒に居るのは楽だと。
嘘ではなかった。本心だった。私にとって浩志は畏怖の対象ではなく、ただ唯一の安心できる異性だった。
「俺はさ、お前が俺に気許してんの分かってたから、いつかって思ってずっと待って、見守ってるつもりだったんだよ。お前はそんなのこれっぽっちも感じてなかったのかよ」
「そ、れは…」
「俺がお前に言ったことに一つも嘘はない。お前が女だろうが男だろうが、俺にとって都筑は楽な存在で、お前がお前らしく居られればって思ってたよ」
浩志の声が震えている。どうしよう。どうしたら良い。頭の中が真っ白だ。なんで、どうして。どうして私、気付かなかったの。浩志のことはよく分かってた筈なのに、どうして。
なにかに突き動かされるように浩志との間にあった距離を詰めた。そっと肩に触れると呆然とどこかを向いていた顔が弾かれたように私の方へ向く。
「ごめん、浩志…私、」
「なんでお前が泣くんだよ。泣きたいのは俺の方だ」
苦しそうな顔。ああ、浩志もこんな顔をするのか。あたたかくて優しい手のひらが頬へ触れた。
「好きだ、都筑。お前の言う好きとは違う。分かるだろ」
ぎゅうっと胸が締め付けられる。なにも言葉は出てこなかったけれど、ゆっくりと頷いた。分かるよ、分かったよ。私は知らない内に浩志のことも傷つけていたのだ。
「……今までみたいにはもう、戻れない…?」
「お前が戻りたいなら俺だって努力する」
「浩志……っ、」
「でも、俺は…、俺はもう今までみたいには居られる自信がない」
浩志が瞬きをすると、静かに彼の頬を涙が伝った。胸が苦しかった。浩志の手が動き、抱き寄せられた。ベッドに腰掛けたまま、私の腹部に顔を押し付けるようにしてすすり泣いている。
「ちが…これには、色々訳が…まだ、付き合ってるというか…」
「ふざけんなよ。お前が…お前が、恋なんかいらねえって、俺が居れば楽だってそう言ったんだろ」
力なくぽつぽつと言いながら、浩志の中に苛立ちが生まれているのが分かった。
私は何度も彼に言った。多くのことを語り合う中で、恋愛なんかしなくたって、浩志やチカが居れば充分だと。浩志と一緒に居るのは楽だと。
嘘ではなかった。本心だった。私にとって浩志は畏怖の対象ではなく、ただ唯一の安心できる異性だった。
「俺はさ、お前が俺に気許してんの分かってたから、いつかって思ってずっと待って、見守ってるつもりだったんだよ。お前はそんなのこれっぽっちも感じてなかったのかよ」
「そ、れは…」
「俺がお前に言ったことに一つも嘘はない。お前が女だろうが男だろうが、俺にとって都筑は楽な存在で、お前がお前らしく居られればって思ってたよ」
浩志の声が震えている。どうしよう。どうしたら良い。頭の中が真っ白だ。なんで、どうして。どうして私、気付かなかったの。浩志のことはよく分かってた筈なのに、どうして。
なにかに突き動かされるように浩志との間にあった距離を詰めた。そっと肩に触れると呆然とどこかを向いていた顔が弾かれたように私の方へ向く。
「ごめん、浩志…私、」
「なんでお前が泣くんだよ。泣きたいのは俺の方だ」
苦しそうな顔。ああ、浩志もこんな顔をするのか。あたたかくて優しい手のひらが頬へ触れた。
「好きだ、都筑。お前の言う好きとは違う。分かるだろ」
ぎゅうっと胸が締め付けられる。なにも言葉は出てこなかったけれど、ゆっくりと頷いた。分かるよ、分かったよ。私は知らない内に浩志のことも傷つけていたのだ。
「……今までみたいにはもう、戻れない…?」
「お前が戻りたいなら俺だって努力する」
「浩志……っ、」
「でも、俺は…、俺はもう今までみたいには居られる自信がない」
浩志が瞬きをすると、静かに彼の頬を涙が伝った。胸が苦しかった。浩志の手が動き、抱き寄せられた。ベッドに腰掛けたまま、私の腹部に顔を押し付けるようにしてすすり泣いている。