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サイレントエモーショナルサマー
第24章 guarigione
どこか、遠くへ行きたい。都会を離れゆったりと穏やかな空気の流れる場所であれば藤くんともっと楽にちゃんと話が出来るような気がしていたのだ。
「大丈夫。ほんとに、気合でどうにかする。ほら、病は気からって言うし、昨日色々あったから気が疲れちゃっただけで…浩志のこととか考えて…あっ、」
うっかり言ってしまうと藤くんの眉間に皺が寄った。立ち上がったばかりだというのに、どかりと私の隣に座り直して、中原さんがなんです?とにっこり笑っている。この笑顔は恐いやつだ。
白状するべきか、しないべきか。藤くんに隠そうとするから胸が苦しくて、変な熱まで出しているのだと思う。嘘をつかない代わりに情報の出し惜しみをする私だが、藤くん相手には通用しない気がする。
彼は私から言葉を奪うことも、引き出すことも簡単にやってしまう。出来るのに、しない。私が自分の口で、自らの意志で話すのを待っているのだ。
「……怒らない?」
「内容によっては」
「だよね…」
みかんのゼリーと共に沈黙も食べる。藤くんも私の隣に座ってもものゼリーを食べ始めた。どこからどこまで話すべきか。全裸の上にバイブを固定された姿を浩志に見られたところまで言ってしまったら藤くんの中に負の感情がぐちゃぐちゃに渦巻くだろう。そこまで言うのは得策ではない。
「実はですね、昨日…浩志にも会いまして…その、」
ゼリーを食べ終えて、探り探りで口を開く。ちらりと藤くんの方を見ると彼の瞳はしっかり私を捉えている。どきりとしてつい視線を逸らした。
「ふ、藤くんとのこと浩志、勘付いてたみたいで…す、好きだと言われました…」
かいつまんで話し、ぎゅっと身を縮こめた。藤くんの反応が恐い。室内を満たす秒針の音や、エアコンが部屋を冷やす音が酷く煩い。時折外から聞こえてくる微かな通行人の声も、なにもかもがうるさくてたまらない。