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サイレントエモーショナルサマー
第24章 guarigione
「……それで、志保さんはどうしたいんですか?」
「へ?」
「俺のとこ出て、中原さんのとこ行っちゃうんですか」

どうしたい、なんて考えてなかった。私はあの時、浩志の愛情のあたたかさに気付けなかったことを申し訳ないと悲しんだだけだった。それに、彼だって私に好きだと言っただけで、どうしたいかは言わなかった。

「俺は、志保さんが出ていくって言うまで絶対に志保さんを追い出したりしません。志保さんが俺とのこと終わりにして中原さんとちゃんと付き合いたいって言うならすぐには厳しいですけど諦めます。志保さんはどうしたいんですか?」

膝の上でかたく拳を握っていた私の手に藤くんの手が被さった。弾かれたように彼の顔を見る。泣き出しそうな、悲しい顔。胸が苦しくなった。

分からない。私は、どうしたいのだろう。力なく開いた口から、声とも取れぬ音が漏れていく。

失いたくなかった。向き合いたかった。向き合った先の選択がなにになるのか、今の私にはまだ分からない。

「……分からない…浩志と今迄みたいに居られないのも嫌だし…もう話せないのも嫌だ…でも、藤くんが居なくなっちゃうのも嫌だ」

私が泣けば、また藤くんを悲しませて、不安させる。必死に涙を堪えながら言うと優しくも力強く抱き締められる。

「本当に、欲張りな人ですね」
「……ごめん」
「まだ、俺のところに居てくれますか?」
「い、ても…いいの?」
「もちろん。寧ろ居てください」
「嫌じゃないの?呆れてない?嫌いになってない?」
「俺はね、志保さんを嫌になったりしません。あなたは変なところで鈍くて、俺の気持ちを不安にさせたり、ざわざわさせたりする人だけど、それでも、俺はあなたが好きです」
「もう1回、言って…」
「好きですよ、志保さん。大好きです。あなたが俺を拒絶するまで絶対に手を離しません」

目の奥がつんと熱くなる。バカ、泣いたらまた藤くんを不安にさせるって思ったばかりなのに。藤くんの背中に腕を回して力を込めた。

ごめんね、藤くん。もう少しだけ、待ってね。あなたが深い愛情を注いでくれるからこそ、私は中途半端な気持ちでは応えられない。

今の私がなんとなく彼に好きだと言っても、意味がない。なんとなく、なんかでは済ませたくなかった。

「ありがとう、藤くん」
「…本格的に猶予がなくなって来たんで、荒療治しましょうか」


むむ?
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