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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ
とらえどころのない笑みはまだ藤くんの顔に乗っかっている。無邪気だと思っていた笑顔も近頃はそうは見えなくなった。良い変化なのだろうか。ひょっとするとあの無邪気な笑みは彼なりの外面なのかもしれない。
私がなんとか抑え込もうとしているのにやはり力は藤くんに敵わない。ゆったりと撫でたりぎゅっと掴んでみたりと太腿を弄ぶ手が恨めしい。
「もうさ、宿に直行しよう。ね、観光は明日にしよう」
藤くんの手の甲をきゅっと抓って半ばやけっぱちで言った。わざとらしく頬を膨らませて彼の顔を見ると、彼は少しだけ笑みを崩し、眉尻を下げた。
「そんなことやってたら結局いつもと同じになっちゃうじゃないですか。俺もしたいですよ、だけど旅行も楽しみたいんです」
「あのさ…私だって旅行は楽しみたいよ。楽しみたいからこの手を退けなさい」
しょうがない、と言いたげに頬にキスをすると太腿からは手を引いてかわりに私の手を取った。指を絡めてきゅっと力を込める。そうだよ、最初からこうしてくれたら私だって変に興奮しなかったのに。
昼食はなににしようか、とか暑いだろうからソフトクリームが食べたいだとかそんな話をしながら気付くと1時間が経っていた。
藤くんと話していると時間の流れが早く感じる。あと藤くんとのセックスの時は気付くととんでもない時間が経っている。勿論、長い長いセックスの後はぐったりと疲れる。それでも、あの疲れは物凄く心地良い。
降り立った駅は有名な神宮の最寄駅とは思えないほど閑散としていた。駅のコインロッカーに大きな荷物だけを預け、大小の神宮や摂社をお参りして歩き、昼食は観光客向けの商店街で豆富ご膳を食べた。参拝をすべて終え再び駅へと戻る。
この時点で、ゆるっと設定している旅行初日の目的はほぼ達成していると言えた。藤くんは私が遠出に不慣れであることを気遣ってかなりゆとりのあるスケジュールにしてくれたようだ。
あとは再度、特急に1時間ばかり乗り、宿のある最寄へ降り立つだけだ。聞けばそこは特急の終点だと言う。本州と橋で繋がっているが、真珠養殖が盛んな湾内にある有人島だそうだ。