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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ
「…なにをそんなに渋ってるんですか」
あと数分ほどで乗るべき特急が到着すると言う中、ホームで渋り顔の私に藤くんは呆れたように言う。原因は君だろう。
「さ、触るのナシだよ」
「そこは志保さん次第ですね」
にこっと笑って人の所為にしてくれた。さっきまでは神宮の参拝で心が洗われたと爽快な顔つきであったのに藤くんはもう通常モード、夜バージョンである。
特急が到着し、乗り込むと抵抗虚しく私は窓際の席に押し込まれる。慣れた様子で窓のカーテンを閉めてご満悦の藤くんは最早私には止められそうもない。
「この車両、俺たちしかいませんよ」
「リスキーなことはしないんじゃなかったの?」
「なに期待してるんですか。ここでは志保さんの想像してるとこまではしませんよ。それは宿に着いてから」
思わず赤面すると藤くんはくすくすと笑う。気恥ずかしさを紛らわせようと顔を逸らすと、志保さん、と呼びかけられる。甘ったるい声で呼ばれて振り返らずにはいられない。
そろりと顔を向ければ藤くんの手が私の頬に触れる。暑い中ずっと歩いていたからなんだか汗ばんでいた。
音もなく、啄むキス。物足りない、とねだりそうになったけれどそこはぐっと堪えた。手が、頬から離れていく。じっと見つめ合ってから座席に深く座り直す。
「志保さん、眠いでしょ」
「……ばれた?」
「疲れた、眠いって顔してます。会社で残業してるときみたい」
「そっちか」
「しょうがないから悪戯しないでおきます。着いたら起こすんで寝てていいですよ」
「……ん」
手を繋いで瞼を下ろす。うとうとと眠りかけてからそっと藤くんを窺うと珍しいことに藤くんの方が先に眠っていた。休憩を挟みながらとはいえかなり歩き回ったので流石に藤くんも疲れているらしい。
藤くんの綺麗な寝顔をこっそり見つめていた筈が、私もいつの間にか眠ってしまったようで、肩を揺すられる感触で目を開くと藤くんが微笑んでいた。