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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ

宿の最寄駅で降りたのは私と藤くんの他は同年代くらいの男性が2人だけだった。ホームの端の方で小さく見える姿を尻目に改札を出ると迎えの車が私たちを待っていてくれた。

とにかく店がないのでお菓子やらなにやらを買うなら駅前のコンビニが最後のチャンスだと言われ、意味もなくお菓子を買って車に乗り込んだ。

ドライバーのおじさんのガイドを聞きながら数分ばかり車に揺られる。彼の言った通り宿泊施設やゴルフ場などがぽつぽつとあるがコンビニやスーパーの類はないと断言してもよさそうだった。

「ふ、藤くん…宿、あってる?私もっとこうビジネスホテルの上位版程度の認識で…」
「あってます。俺が志保さんとの旅行で適当なホテル抑えるわけがないでしょう」

フロントでのチェックインまでは特に戸惑うこともなかった。お部屋はこちらです、と別棟に案内された先、室内に一歩足を踏み入れる前の時点で私は面食らって、部屋に上がっていく藤くんに続くことが出来なかった。

「志保さん?あってますから入ってきてください」

部屋へと導きながら仲居さんが軽く話してくれたのだが、この宿は全室離れの造りで、各部屋に内風呂と露天風呂がついており、大浴場は25時までの利用でフロントのある本棟の2階にあるという。

「すぐ夕食の時間になっちゃいますよ。そんなとこ立ってないで、こっち来てください」

一向に部屋に入ろうとしない私に痺れを切らし、荷物を置いた藤くんが私の傍まで戻ってくる。平屋の離れ。玄関に当たる部分でようやくサンダルを脱ぎ、部屋へと上がった。
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