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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ
10畳程度の和室と同じく10畳程度の洋室が繋がっており、隔てる襖が開かれている為に実際の間取りより広く見える。
和室部分には大きな座卓が置かれている。引き戸から見て正面の壁には低めの棚が設置され、そこには藤くんの部屋のものと同じくらいのサイズのテレビが鎮座していた。
続く洋室はぱりっとしたシーツが眩しいダブルサイズのベッドが目を引く。ベッドの向こうの壁際にカウンターテーブルがあり、椅子が二つ置いてある。すだれが下ろされているが広めに窓を取っているようで、夜の近付く18時前でも外の光が差しこみ、室内に十分な明るさを満たしていた。
「志保さん、こっち、お風呂見ましょ。あとで一緒に入りましょうね」
藤くんは心なしか子供のようにはしゃいで見えた。手を引かれ、洗面台付の脱衣所を抜け浴室へ。ここも十分すぎるくらいの広さを取ってある。
奥の方にはガラス戸があった。足が濡れるのもいとわず私の手を引く藤くんはそのガラス戸を押し開ける。
「……きれい」
ガラス戸の先は露天風呂だ。人がふたりで入ってもゆとりのありそうな湯船は美しい紅色をしている。
「夜はもっと綺麗なものが見えますよ。星がね、綺麗なんだって聞きました」
「……どうしよう、藤くん、なんか泣きそう」
「え、なんでですか。ちょっと、泣くのやめてください」
嬉しくて、泣き出してしまいそうだった。きっと藤くんは私を想って、あれやこれやと悩みながらこの部屋を押さえてくれたのだろう。
「ありがとう、藤くん。こんなことしてもらったの初めてだから凄い嬉しい」
「喜んでもらえて良かったです。食事も美味しいらしいですよ。楽しみですね」
「うん」
嬉し泣き寸前、感動の嵐の中の私はこの後、別の意味で泣く羽目になることを、未だ、知らない。