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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ
いつもと違う場所に居る。いつもとは違うベッドで、藤くんと触れあっている。何度も何度もセックスをしているのにどきどきと心臓がうるさい。

硬い枕の感触だって普段とは違う。それでも、私の身体に触れる藤くんの指の優しさはいつもと同じだ。

「…少し、待ってくださいね」

うっとりと閉じた瞼にキスを落として、藤くんはベッドから降りて行った。一応、下半身にバスタオルを巻いている所がなんだか可愛い。

なにを取りに行ったのかは分かった。このパターンは過去、何度か遭遇したことがある。藤くんではない顔も思い出せない人たち。その時は用意しとけよ手際悪いなと思ったものの、今は藤くんの律義さが胸を打つ。

だが、藤くんは荷物をごそごそと漁ったのち、なにやら硬直しているようである。ただならぬ様子に首を傾げてベッドから起き上がった。

和室の方で私に背中を向けている藤くんに近寄る。裸のまま隣にしゃがみ込んで横顔を見ると、やっちまったと言わんばかりの顔だ。

「…どうしたの?」
「……」
「藤くん?」
「……ない、んです」
「はい?」
「持ってくるの忘れたみたいです」
「……それは…ゴムが…ないと…」
「そうですね…」

なんとも言えぬ顔つきの藤くんは荷物から手を離すと私を抱き締めた。藤くんがしょげている。でもって、葛藤している。いいこいいこ、と普段の彼を真似るように髪を撫でてやるとかぷりと肩を噛まれる。

「買いに行こうか。ほら、駅前のコンビニなら20分くらい歩けば行けなくはなさそうだし」
「…いや、えっと…コンビニにはない、かと」
「あるでしょ、普通」
「あのー…なんといいますか、サイズ的な…」
「…!」

私はセックスにムードを求める女ではない訳で、中断されたことに文句もなにもない。ゴムがないのなら買いに行けばいい。そんなにしょんぼりしなくていいよ、と軽い気持ちで買いに行こうと言ったのだが、私は重要なことを失念していたのだ。

藤くんのご立派なモノが一般的な男性のソレとはまるでサイズが違うことを私は忘れていた。ほぼ毎日のように当たり前に受け入れていたモノが着用するコンドームが一般的なサイズである筈がなかった。

「ダメ元で行ってみる?あれだよね…えーっと、小さいと痛いんだっけ…」
「……」

なんと、藤くんが完全にしょげている。ある意味最高の焦らしプレイだと言っていた表情は見る影もない。
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