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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ
「ダメです。そういうのはちゃんと結婚してからじゃないと」
間髪入れず、藤くんは答えた。思わず立ち止まると繋いだ手が離れていく。
「そういうこと簡単に言ったらダメですよ。自分の身体なんだから大切にしてください」
「………」
そんなこと今更したって意味なんかない。藤くんは浄化すると言ってくれたけれど、私の身体は真っ黒に汚れている。避妊なんかしなくたって子供も望めないかもしれない。
ごめん、藤くん。もっと綺麗なままで居たかった。私は度々思って来た時以上に、これまでの自分の生き方を恥ずかしく思った。
立ち止まって俯いた私の手を取ると藤くんはきっと優しく微笑んだ。街灯がない所為で顔はよく見えなかったけれど、心地よい空気感で彼は微笑んでいるのだろうと感じた。
「……私、やっぱり藤くんに大事にしてもらう資格ないよ」
「それは志保さんが決めることじゃありません。俺があなたを大切にしたいんだからそうするだけです」
「なんで…なんでそんな風に思ってくれるの?私、全然成長しないし、散々適当な相手とセックスしてきたし、もしかしたら子供だってできないかもしれない…藤くんにはもっといい相手みつかるよ、藤くんは優しいし、かっこいいし…私なんかじゃなくたって……」
声を荒げて泣きながら言うと藤くんは足を止めた。言葉は何故だかストッパーを破壊し、するすると口から出て行ってしまった。深く息を吸い込むと藤くんの腕がこちらへ伸びてくる。びくりと肩を震わせ、身を固くするとそっと抱き締められた。
「俺には志保さんしか居ません。何回言ったら分かってくれるんですか?」
「でも…、」
「俺にとって志保さんはナンバーワンかつオンリーワンなんですよ。今も、これからも」
「藤くん……」
だめだなぁ、泣いてばかりだ。いつから私はこんなに泣き虫になったんだっけ。藤くんの胸元に顔を押し付けると鼻腔に彼の優しい匂いが広がる。彼のシャツに涙が染みこんでいくのを感じながら、ただただ強くしがみ付く。