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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ
「戻りましょう。戻ったらあなたがどれだけ俺の救いになったのか話します」
髪を撫でて、身体を引き離すと私の手を取った。無言で歩き出し、宿へと戻る。
洋室の広く取った窓の向こうにはリアス式の美しい海岸線が広がっていた。カウンターテーブルの前の椅子に並んで座って、すだれをあげ、暗い水面をぼんやりと眺める。
「……」
藤くんは話すと言ったが、まだ気持ちの整理がついていないような様子だった。大丈夫、焦らなくていいんだよ、と彼がいつも私の言葉を引き出してくれる時のことを思い出しながらカウンターに投げ出された藤くんの手に自分の手を添える。
「……俺、背が伸びるの遅かったって言ったの覚えてます?」
「うん、覚えてる」
「身体もほんと凄い華奢で…親兄弟の言いなりって言うかそんな感じで髪もちょっと長くて…女の子みたいだったんですよね」
確かに、今の彼は身長もすらりと高くて男性の体つきではあるが、もし今よりも背が低く華奢であれば女の子に見えたかもしれない。藤くんの顔つきはとても中性的だ。
「名前も女みたいな名前で…学校行けば女子は、こう、かわいがるっていうか…きゃあきゃあ言ってましたけど…男子からは結構目障りだったみたいで…」
綺麗な横顔が強張っている。焦点の合わない目が無性に怖くて、藤くんがどこかへ行ってしまいそうに見えた。ぎゅっと重ねた手に力を入れる。大丈夫、体温がある。藤くんはここにいる。
「なにがきっかけになったかよく覚えてないですけど、高1のある日俺は中学の頃から幅きかせてた男子から体育用具の倉庫に呼び出されて……女男だなんだって色々言われて、まあ、ほら、男ってバカだから、お前ちゃんとモノついてんのかよって…何人だったかな…4人とかですかね、押さえつけられて脱がされて…」
藤くんの手が小刻みに震えていた。思わず立ち上がって彼の身体を抱き締める。嘘みたいに冷えた身体だった。
「女みたいな顔と身体でついてるもんはでかかった訳ですよ…それが面白かったのかなんなのか俺は気付いたらそいつらの玩具みたいになってて…俺のこと縛って脱がせて…俺がイクまで延々しごくのがやつらの遊びみたいになって…」
「いい、藤くん、ごめん。つらいこと思い出させてる」