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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ

「志保さん、言ったんですよ。苦しいかもしれないけれど戦ってごらんって。耐える力をあなたは持ってるからそれを立ち向かう力に変えてごらんって」

「あの子…何日かして店に来た…戦ったよって言ってた…それでまたチーズケーキ食べたね…よく頑張ったって、あの時のケーキ、確か店長がご馳走してくれたんだよ」

「白髪の優しいおじいちゃんでしたね。志保ちゃんは優しいねって、言ってました。志保?って聞いた俺に志保さんは笑って『そうだよ、志を保つって書いて志保だよ』って。その時ね、志保さんの名札には苗字しか書いてなかったから…俺の背中を押してくれたこの人は都筑志保っていうのかって思いました」

藤くんは私の一言で従うばかりだった壮絶ないじめに立ち向かうことができたと言った。私の言葉を何度も思い出しながら、倉庫へと連れて行こうとする男子生徒に抗って、その時、生まれて初めて人を殴ったのだとも。

女の子だとばかり思っていた当時の藤くんは確か、時たま店に現れたけれどいつしか姿を見せなくなった。どこかで元気にやってるのかなと思っていたものの、時間の経過と共に私は彼のことを思い出さなくなった。

「喧嘩して自宅謹慎で、親にはすげえ怒られました。なんで殴ったりしたんだって怒鳴られて、でも、俺は頑としてなにも言わなかった。謹慎明けですぐ夏休みになって親の言いつけで長くしてた髪をばっさり切って、頑張って身体鍛える方法とか調べたんですよ…そしたらね、休みの間にぐんと背が伸びて、やっと体つきも男らしくなって」

そこまで言って藤くんが顔を上げた。ここ、座ってください、と促され彼の足の上に横向きに座る。私をぎゅっと抱き締め、頬にキスをしてくる彼にはいつもの調子が戻ってきているようだ。

「志保さんね、他にも言ってくれたんですよ。しんどいなって思った時は無理しなくていいんだよって、寄り道してごらん、肩の力抜いてごらんって。そしたら案外道が開けて見えるかもよって」
「………随分と無責任なことを言ってるね当時の私」
「でも、あの頃の俺にとって志保さんがくれたたくさんの言葉が救いでした。志保さんに出会わなかったらいつまでもいじめられてたかもしれないし、今、こうして生きてなかったかもしれない」
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