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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ
正直に言ってしまうと、私は結構軽い気持ちで言ったのだと思う。マスターがそう言ってくれたことが嬉しくて、マスターが凄く格好よく見えたからその真似をしたかったのだろう。
「これで、俺の話は全部です。あとはなに聞きたいですか?家族構成?両親は健在で俺は男三人兄弟の末っ子で、兄二人は俺と全く系統の違う顔でどちらかと言うと部長寄りです。ちなみに下の兄は推定童貞で…」
「う、うん、もう大丈夫。頭ぱんぱんだからこれ以上入らない」
「俺は女の子みたいに育てられたんですよ。名前もね、ちはるって女の子みたいでしょ」
「……藤くんって下の名前ちはるだったっけ?」
「酷いな…志保さんってそう言うとこありますよね」
「いや…ごめん、でも、藤くんは藤くんだもん」
へへ、と笑って藤くんの額にキスを落とす。知識の『知』に晴れで、知晴です、と照れくさそうに言う顔が可愛い。首に腕を回してぎゅっと抱き着く。
「本当は、この話、しないつもりだったんですよ。志保さんは優しい人だから俺のこんな話聞いたらたぶん同情っていうか…その、色々惑わせるんじゃないかって思って…」
「…つらいこと、思い出させて申し訳ないって思ったけど、藤くんが話してくれて嬉しかったよ。それに、藤くんがちゃんと戦って、生きててくれて良かった」
藤くんがもし、生きいてくれなかったらこうして出会うことはなかった。もし、この出会いがなければ私は変わろうとしないままだった。今ならやっと話すことが出来ると思った。今を逃せばまた私はもたもたして彼になにも話せないままになってしまうだろう。
「ね、藤くん、私の話も聞いてくれる?もう、時間遅いし…それに、楽しい話じゃないけど」
「いくらでも聞きます。でも、志保さんがつらいなら無理しなくていいですよ」
「ううん、今だからこそ、藤くんに聞いて欲しい」
彼の話を聞いている内にあと十数分もすれば日付が変わろうかという時刻になっていた。
それからなんとなくベッドへ移動して、藤くんに腕枕をしてもらいながら両親とは死別していること、晶との生活のこと、三井さんとのこと、その後に起こったことを全て話した。どうしてまともな恋愛から逃げていたのかということも、なにもかも全て。自分でも驚くほど言葉はスムーズに紡ぐことが出来た。