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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ
両親は、とにかく教育熱心な人だった。『これ』と決めた志を保てる子に育ちますようにとつけられた『志保』という名前は中学に上がった頃から何故だか、ただただプレッシャーだけを私に与えた。
昔の私はこれといって目立つような子ではなかったと思う。なにをやっても中途半端で、なにかを失敗する度に両親は深い溜息を吐いてそれを嘆いた。
きつく眉を吊り上げて、落胆する両親の顔を見たくなくて、手をつけたことはとにかくがむしゃらに頑張った。高校受験で地区で一番の進学校に受かった時、両親は初めて私を褒めてくれた。それが最初で最後だった。
高校に入ってからは結果を出すこと、評価されることが不思議とこれまでよりも容易くなった。だが、両親は中々私を認めてはくれなかった。そんな中、私は安息を求めてあの小さな喫茶店でアルバイトをしていた。マスターに頑張りすぎなくていいんだよ、とチーズケーキを食べさせてもらった。あの店でのバイトは大学を卒業するまで続けた。
「……両親はね、突然事故で亡くなったんだ…その時、私、ああ、そっか、もう頑張らなくていいのかって、思ったの。悲しさもあったけど、それより、なんていうのかな…違う気持ちの方が大きかった」
私は両親に認めてもらいたかった。褒めてもらいたかった。物心ついた頃からずっとそう思って生きてきたが、彼らが私を褒めてくれたのはたった一度きりだった。
葬儀が終わり、チカに助けられながら日常に戻っていき、晶と出会った。あの時、まだ優しい人の皮をかぶっていた晶は泣き喚いて、どうして私を認めぬまま死んだのだと両親を責める私の話を聞いてくれた。あの頃の晶の顔はもう思い出せそうもない。
「……そんな訳で色々と逃げたり放り出したりしてきましたが、私は、藤くんのおかげでちょっとずつ進んでいると思っておりまして…えっと…なんだろ…その…」
「……とりあえず、俺、その志保さんの最初の男ぶっ殺してやりたいんですけど」
「あ、うん、まあそうなるよね…私もいつか地獄に落としてやりたいと思ってるけど…実行したらダメだよ」
旅行前、藤くんに隼人と晶にされたことを話したとき、一応晶のことは元彼(仮)だと言っていたので、藤くんは完全に怒った顔で硬く拳を握りしめている。